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(声明) 広島市教育委員会が平和教育の副教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます

(声明)

広島市教育委員会が平和教育の副教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます

 

広島市教育委員会は2023年2月8日「平和教育プログラムの改訂について(報告)」を出しました。その中で、副教材「ひろしま平和ノート」から漫画『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」(「ビキニ被ばく事件」)についての記述を削除しました。

『はだしのゲン』は広島で被爆した作者中沢啓治さんが、自らの体験をもとに原爆の実相を伝えた作品で、広島のみならず原爆の恐ろしさを世界に伝えてきました。「第五福竜丸事件」は1954年3月1日に静岡県焼津市のマグロ漁船の乗組員が米国の水爆実験によって被ばくした事件です。これをきっかけに原水爆禁止運動が広がり、1955年第1回原水爆禁止世界大会が広島で開催されました。それから現在まで8月6日・9日に広島・長崎で大会が開かれています。また、調査によって多くのマグロ漁船が被ばくしたことが明らかになりましたが、現在まで正式に被ばくが認められていません。また、実験地の人びとは、今も被ばく後遺症に苦しめられ、故郷に帰還できていません。

広島市教育委員会は平和教育プログラム改訂会議において該当学年の教材としての適否を見直して、『はだしのゲン』は「浪曲の場面は、児童の実態に合わない。鯉を盗む描写は児童に誤解を与える恐れがあり…教材として扱うことが難しい」、「第五福竜丸事件」は「被爆の実相を確実に継承する学習内容となっていない」としています。しかし、『はだしのゲン』をどの年代でどのように扱うか、「第五福竜丸事件」をどう扱うかは、学校・教員が児童・生徒の実情から検討すべきであり、教育委員会が教材の適否をし、排除することがあってはなりません。『はだしのゲン』は描写内容が問題視され、学校図書館での閲覧を制限する動きもありました。「第五福竜丸事件」についても、核開発や核抑止論の立場から核の歴史や放射能の危険性を学ぶことが障害となっていると考えざるを得ません。

私たち歴史教育者協議会は、平和教育を重視してきた被爆地広島が、『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」の教材を不適切として削除・排除することは極めて重大だと考えます。広島市は毎年8月6日に平和式典を開催し、原爆死没者の追悼とともに核兵器廃絶と世界平和の実現を願い「平和宣言」を世界に発信しています。今、ウクライナ戦争で核兵器使用の懸念も生まれ、国内では「核共有論」「非核三原則の見直し」の論議が始まっています。このように核使用が現実味を帯びてきた今、原爆・核兵器使用がどれほど悲惨であったかを学ぶことは重要であり、『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」は貴重な教材です。5月開催の「広島サミット」を前にして、人類初の戦争で原爆攻撃を受けた広島・長崎のある日本の政府が核兵器禁止条約に署名すること、核の実相を学びその廃絶につながる教育を重視する姿勢を示すことが求められています。今回の「ひろしま平和ノート」の改変は、私たちが積みあげてきた平和教育を根底から覆し、核兵器保持に転換しようとする国の政策が背景にあると危惧せざるをえません。

歴史教育者協議会は1949年の創立以来、戦争の実相をしっかりと伝え、次世代に戦争体験を継承する努力を積み重ねてきました。平和教材から『はだしのゲン』「第五福竜丸事件」を削除することに抗議し、その撤回を求めます。 

                          2023年3月26日

                         歴史教育者協議会 臨時社員総会

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皆で学んだ「ウクライナ侵攻をどうとらえるか」 歴教協第41回中間研究集会報告(ハイブリッド)

 1月8日(日)に「ウクライナ侵攻をどうとらえるか」というテーマで、第41回中間研究集会をラパスホール
で実施しました。会場に42人、オンラインに71人の合計113人の参加があり、時宜にかなったテーマということ
もあり熱のこもった集会となりました。              
 

《講演について》
午前の講演では 山田朗さん(歴史教育者協議会委員長・明治大学)が「ウクライナ戦争と日中戦争、そして
現代日本の軍拡を考える―その類似性と危険性―」をテーマに日中戦争と比較してのウクライナ情勢と現代日本
における大軍拡と改憲の潮流について語ってくださいました。
前半の「類似性」では①1930年代の日本と現在のロシアはともに軍事大国であり侵略国、②「満州国」建国(1
931~32年)とクリミア併合(2014年)を「成功事例」と認識した、③一撃によって相手が降伏する、政権が崩壊
すると見た誤算、④長期戦化して一般市民の犠牲が拡大、⑤「戦争」と呼称せず、戦争の実態を国民に知らせな
い報道体制という5点をあげて言及しました。後半の「危険性」では①軍拡加速化、②新たな戦争、③残虐兵器使
用、④和平実現の困難性の4点について触れて、ウクライナ戦争は第3国(中立国・勢力)による和平仲介しか打
開の道はないと論じました。
「類似性」と「危険性」を指摘したうえで、今回の講演のヤマ場とも言うべき「現代日本における大軍拡と改憲
の潮流を許さない」ために現状をどのように分析、打開したらよいかの提言がありました。「台湾有事=日本有事」
論の喧伝により「防衛費増額賛成論」の増加、現実に2023年度防衛予算段階ですが1年で2兆円弱の増加の可能性
に触れ、中国との軍拡競争が「加速」する危険性を強調されました。同時に「スタンド・オフ防衛能力」は「敵基
地攻撃能力」へと転化、危険な新戦略の台頭も考えられると指摘されました。
 最後に、新しい安保3文書(国家安全保障戦略②国家防衛戦略③防衛力整備計画)の問題点を明らかにして、軍
拡・改憲の潮流を押し返すために?戦争の記憶の継承、②戦争の歴史と実態、軍拡の実態を知ること、③戦争に加
担しないという3点を力説、強調されました。

《報告について》
 午後は、午前の講演を受けて山本悦生さん(島根県歴教協、津和野町立津和野中学校)が「世界の”今”を授
業に―歴史学習の最後に取り上げたウクライナ侵攻―」、続けて中條克俊さん(歴教協副委員長、中央大学)が
「関東大震災/朝鮮人虐殺事件100年―関東大震災直後に何が起きたか」を報告してくださいました。
 山本さんは、2022年6月現在のウクライナ情勢から2時間構成の授業実践を報告しました。1時間目はロシア
のウクライナ侵攻の現状を確認して、2時間目は「ゼレンスキー大統領は2月24日の侵攻前に戻すまで抗戦すべ
きか、約20%を明け渡して停戦すべきか」という問いを提示して討論を深めることができたとのことでした。
 中條さんは、関東大震災100年にあたって9月1日は「防災の日」だけではなく「追悼の日」であることを忘れ
てはならないとして①朝鮮人虐殺事件②中国人虐殺事件③金子文子・朴烈事件④亀戸事件⑤福田村事件⑥大杉栄
虐殺事件(甘粕事件)を扱った授業実践について報告されました。

 講演、報告を受けて、会場並びにオンライン上での質疑応答がおこなわれ、テーマの重要性から実りある討議
ができ、兵庫大会への流れをつくることができました。

《アンケートから》
 アンケートには「時宜にかなった講師と報告者の人選でよかった」、「ウクライナをどうとらえるかというテ
ーマは、教員でなくとも参加しやすかった」、「市民の方の参加も多く、関心が高いことがわかった」、「ウク
ライナ情勢とあわせて関東大震災100年の報告もあってよかった」という声がありました。

1/10現在集計 よかった まずまずだった 不満だった
オンライン参加者 17人(85.0%) 3人(15.0%) 0人
会場参加者  6人(75.0%) 2人(25.0%) 0人
合計 23人(82.1%) 5人(17.9%) 0人

 

 

 

 

 

 

歴教協編『明日の授業に使える中学校社会科 公民[第2版]』(大月書店)

 

「明日の授業に使える中学校社会科」シリーズ第2版のうち、本年3月に刊行した「歴史」に続
き「公民」が刊行となりました。
 これまでの『社会科の授業』シリーズで蓄積された授業アイディアを踏まえつつ、学習指導要
領の改訂にあわせて内容・情報を全面リニューアル。
 SDGsや新型コロナ感染症、ウクライナ戦争と核兵器廃絶の動き、女性の権利と性の多様性、ヘ
イトスピーチなど、最新の話題も盛り込んで、主体的な学びと主権者教育に役立つテーマを取り
揃えました。
 旧版と同じく専用サイト「デジタル資料集」に登録することで資料画像やワークシート案をダ
ウンロードして使えます。ぜひご活用ください。

歴史教育者協議会(歴教協) 編(編集委員 大野一夫、石戸谷浩美、岩田彦太郎、平井敦子)
『明日の授業に使える中学校社会科 公民[第2版]』
大月書店刊 2022年6月20日発売 ISBN978-4-272-40869-6
B5判200ページ 定価3,300円(本体3,000円+税)
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b605387.html

目次
シリーズ刊行にあたって
問いに向きあい、未来を創る主権者育成を
デジタル資料集の使い方

Ⅰ 現代社会と私たち

1 私の未来予想図と現代社会
2 持続可能な社会に向けて
3 現代社会の特色とわたしたち①
4 現代社会の特色とわたしたち②
5 私たちの生活と文化
6 多文化共生の実現のために
7 「家族」で考える社会と法
8 社会の合意をつくる?効率と公正の観点から
発展学習 「自分ごと」として想像力を重視した学習活動を

Ⅱ 個人の尊重と日本国憲法

1 人権の歴史
2 立憲主義と日本国憲法
3 前文の理念と基本原理
4 国民主権と天皇の地位
発展学習 国民主権と現代の政治
5 平和主義の思想
6 憲法9条と自衛隊
7 日本の平和と日米安全保障条約
8 国際社会の平和と日本の役割
発展学習 集団的自衛権と米軍基地
9 私が個人として尊重されること
10 差別を解消し平等な社会を実現するために
11 アイヌの人びとの民族としての誇りを守る
12 私はやってない!?自由権と現代社会①
13 精神の自由は守られているのか?自由権と現代社会②
14 教育を受ける権利は保障されているのか??社会権①
発展学習 ヘイトスピーチを考える
15 一人で街へ出たい?社会権②
16 人権保障を確かなものに
17 「象のオリ」から考える公共の福祉
18 BLMから考えるこれからの人権保障
19 子どもの権利条約
20 情報化社会と人権
発展学習 沖縄の基地被害から考える「軍隊の存在」と人権侵害

Ⅲ 現代の民主政治と社会

1 民主主義と政治
2 政治参加と選挙
3 政党のはたらきと民意
4 マスメディアと世論
5 選挙の課題とさまざまな政治活動
発展学習 私の代表を議会に送ろう?○○中学校模擬選挙
6 国会で決まることと私たち
発展学習 私たちが国民の代表だ?1時間でできるかんたん模擬国会
7 行政を監視する国会
8 内閣の仕事と私たち
9 行政の役割と行政改革
10 裁判を受ける権利と裁判所
11 裁判の種類と人権
12 司法制度改革?裁判員制度と司法の課題
発展学習 司法を市民のものに 模擬裁判と国民審査
13 三権の抑制と均衡
14 私たちの生活と地方自治
15 地方自治のしくみ
16 地方財政のしくみと課題
発展学習 地方自治への参加?防災ハザードマップを利用したフィールドワークを生かした災害図上訓練(DIG学習)

Ⅳ 私たちの暮らしと経済

1 私たちの暮らしと経済
2 私たちの消費生活
3・4 消費者の権利
5 消費生活を支える流通
6 市場経済のしくみ
7 価格の決まり方とはたらき
8 資本主義経済と企業
9 株式会社のしくみ
10 企業の社会的責任(CSR)
発展学習 株式会社・企業・起業
11 貨幣とは何か?
12 私たちの生活と金融機関
13 景気と金融政策
14 労働の意義と労働者の権利
15 働きやすい職場をつくる
16 外国人労働者
発展学習 こんなときどうする? 労使交渉
17 私たちの生活と財政
18 政府の役割と財政の課題
19 社会保障のしくみ
20 少子高齢化と財政
21 公害の防止と環境の保全
22 グローバル化する日本経済
23 豊かさと経済
発展学習 日本経済の課題

Ⅴ 地球社会と私たち

1 国際社会における国家
2 国際協調と領土問題
3 国際連合のしくみと役割
4 地域主義の動きと東アジア
5 地球環境問題
6 資源・エネルギー問題
7 公正な社会のために?貧困問題
8 新しい戦争?平和の実現のために
9 世界の人びとと平和をつくる?核抑止力と核兵器禁止条約