投稿者「rekkyo_admin」のアーカイブ

産経新聞と日本維新の会及び文科省による教育実践への政治介入に抗議する(声明)

   『産経新聞』(2022年1月30日付)は、日本教職員組合の教研集会社会科教育分科会で報
告された新潟県の小学校6年の実践レポートについて、教材としての五日市憲法の評価に
も触れつつ「大日本帝国憲法(明治憲法)の制定過程に関して事実を歪曲」、「教員が一
方的な解釈を示したことで、正しい歴史理解が図れなかった」などとし、他のレポートに
ついても実践内容には一切触れずに「絶対に憲法を変えてはいけない」「戦争をしないで
憲法を守る」との子どもの感想とみられる文章だけを取り上げ、「現行憲法に対する“護
憲”思想を浸透させようとする教員の政治的意図が見え隠れする」とした記事を掲載した。
 この報道を受けて、2022年2月2日、日本維新の会の山本剛正議員が衆議院予算委員会で
質問を行い、「総理は〔中略〕憲法改正の実現を目指しているが、間違った教育が(によっ
て)、憲法を国民の手に取り戻すことができない」のではないか、調査すべきだと岸田首相
にせまり、「文科省においても新潟県教育委員会を通じて確認している」との答弁を引き
出している。
 教職員組合の教研集会や民間教育研究団体の集会で報告された教育実践を、マスコミ等
が報道すること自体は否定するものではないが、実践の意義や課題についてはそれぞれの
集会の中で議論されるべきものであり、社会的な影響力が大きいマスコミ等は研究集会の
自主性を尊重し、教育研究の自由を保障する立場で報道すべきだと考える。
 ところが、今回の「産経」報道は、実践の内容に踏み込んで論評し、「護憲」・「改憲」
という側面だけを切り取って評価し、批判するというきわめて恣意的かつ政治的なもので
ある。
 さらに山本議員の質問は、このような「産経」報道を利用した教育実践に対する政治介
入であり、教育基本法の禁ずる教育への「不当な支配」そのものである。しかも、憲法尊
重擁護の義務のある国会議員が憲法改正という目的のために行っており、二重の意味で違
法行為である。
 また、質問を受けて、当該教育委員会を通じて実践について「確認」した文科省の行為
は不法な政治介入である。
 今回の恣意的、政治的な「産経」報道と日本維新の会山本議員の国会質問、並びに文科
省の対応は、憲法に関わる教育活動を委縮させ、社会科教育の自由を抑圧するものであり、
看過することはできない。
 以上のことから、歴史教育、社会科教育に関わる民間教育研究団体である私たち歴史教
育者協議会は、『産経新聞』の報道、これを利用した日本維新の会山本議員、及び文科省
に強く抗議するものである。

                           2022年2月27日
                           歴史教育者協議会常任委員会

 

PDF版はこちらから

「返還50年の沖縄についてみんなで学んだ、歴教協第40回中間研究集会(ハイブリッド)!」

 1月9日(日)に「返還50年の沖縄と歴史教育の課題」というテーマで、第40回中間研究集
会を実施しました。初めての「会場とオンラインとの併用(ハイブリッド)」となりましたが、
約130の参加があり、大成功に終わりました。

1,内容は…
 午前に鳥山淳氏(琉球大学)の講演と、沖縄の高校生のスライド報告。午後は、A「沖縄に
関する授業実践報告」と、B「「歴史総合」も含めた教育課程の学習会」の2つの分散会を実
施しました。
 鳥山淳氏の講演テーマは「『返還50年』の沖縄をどうとらえるか」でした。沖縄の歴史を
150年前まで遡り、琉球処分以来1910年代までを「日本国家が強権的に領土に組み込んだ50年」
とし、近代化を図る施策が先送りされた時代と特徴付けられました。1920年代から1960年代を
「日本国家が沖縄を激しく翻弄し、犠牲を強いた50年」とし、日本軍と米軍による要塞化、米
軍による長期占領とともに、沖縄糖業の保護と「国民経済」の相克についても言及されました。
返還から現在までを「日本国家の沖縄に対する責任(過去の清算)が問われた50年」とし、「責
任」は後退し、基地と振興策を「リンク」させる論理が前面に登場してきていると指摘されま
した。
 沖縄の高校生上原一路(ひろ)氏は、スライドで沖縄の抱える問題を指摘し「先生方、沖縄
の声を伝えて」と訴えました。
 分散会A「沖縄に関する授業実践報告」では、小中二つの報告が沖縄から出されました。小
学校の儀間奏子氏は、コロナ禍の子どもたちに、今の不自由な生活を見つめ、もっと大変な時
代があったことを、中山キクさんの体験をもとに紙芝居を作り伝えていきました。身近な問題
から、子ども達は沖縄戦に関心を示しました。中学校の宮城美律氏は、校内に「平和委員会」
を作り、生徒たちの手で「平和を伝えていこう」という取組みを全校に組織しました。教師は
いずれ転勤してしまうが、読谷という地域に生きる子ども達はそれを伝え続けていけるという
信念が伝わってきました。どちらも、慰霊の日だけでなく子ども達が平和を考え伝えていく実
践が伝わった中身の濃い分散会でした。
 分散会Bでは、高校の新科目「歴史総合」を見据えた実践が2本報告されました。愛知の伊
藤和彦氏は、日本近代の戦争と感染症の関りについて、日中戦争と生物兵器、アジア・太平洋
戦争での日本軍兵士の死など、授業での「問い」を示しながら報告しました。千葉の周藤新太
郎氏はフランス革命と明治維新の比較学習について報告しました。生徒は班別にワークシート
を基に話し合い、「明治維新は革命なのか」「文化の違いから考える日仏の性格の違い」など
の「問い」をつくる。さらに両者の類似点、相違点などを調べるワークシートに基づく学習の
後、各自が結論を導き出すという実践でした。

2,参加者の感想は…
〇全体を通して…「1日通して『沖縄』と『平和学習』について考えることができる充実した
 集会でした。講演会・高校生の発言・分科会というプログラムがとても良かったです。」
〇鳥山氏の講演…「沖縄の『返還50年』を考えるための時間軸『3つの50年』という整理の
 仕方が、沖縄の現状を考えるうえで、とても分かりやすかったです。そして、150年間も
 沖縄に犠牲を強いている状況であることを認識し直しました。質疑応答で、講演の内容が補
 強され、理解が深まりました。」
〇沖縄の高校生のスライド報告…「すばらしくて感激しました。研究している貝の話から基地
 問題に迫った報告は、たいへん説得的でいろいろな方に知ってほしいと思いました。インス
 タグラムで声をかけて活動を始めた行動力もすてきだと思いました。『歴史地理教育』に書
 いてほしいです。」
〇分散会A…「儀間さんの報告も宮城さんの報告も素晴らしかった。小学校、中学校の違いはあ
 るが、いずれも生徒の主体的な学びを引き出していく。地域の人たちのいろんな力を活用す
 る。生徒は平和の大切さを『自分事』として全身を通して学び取っていく。沖縄の平和教育
 の分厚い取り組みの一端を見せていただいた。」
〇分散会B…「伊藤報告…歴教協のこれまでの優れた実践を基に『歴史総合』の授業を創ってい
 こうという姿勢に賛成です。周藤報告…比較することが日本史と世界史をつなぐ(授業)方
 法として有効であることがわかりました。」
〇ハイブリッドについて…「コロナ禍がつづくと思うので、このような方法(ハイブリッド)は
 今後も取り組んでいかないといけないと思いました。支部の例会も取り入れる予定です。」

【声明】政府及び日本維新の会による歴史事実を否定する動きと教科書への政治介入に抗議する

【声明】政府及び日本維新の会による歴史事実を否定する動きと教科書への政治介入に抗議する

 政府は、4月に日本維新の会議員から出された「従軍慰安婦」や「強制連行」「強制労
働」に関する質問主意書に対する答弁書を閣議決定しました。その内容は、「当時使われ
ていなかった『従軍慰安婦』という言葉を用いることは、軍により『強制連行』されたと
いう『誤解』を招くおそれがあるので、今後は慰安婦とする。さらに、朝鮮半島から日本
への戦時労働を『強制的に連行された』などとするのは、『募集』、『官斡旋』など様々
な経緯があり不適切で、これからは『徴用』という用語がふさわしい」などというもので
す。
 閣議決定された政府答弁書には4 つの重要な問題があります。1 つめは、ある事項につ
いての歴史用語を政府見解として決定し、他の用語で教科書に記述することを禁止するこ
とは、憲法の言論、学問・研究の自由を侵害していることです。なお、歴史研究の積み重
ねにより、政府見解とは別の意味で「従軍慰安婦」という用語は適切でないとされ、日本
軍「慰安婦」という用語を使用することが多くなっています。2つめは、「当時使われて
いなかった」との理由が的はずれであるということです。1941年から45年までの戦争を当
時は「大東亜戦争」と呼びましたが、現在の教科書では、太平洋戦争やアジア太平洋戦争
と表記されています。歴史用語は、研究の発展によって変化していくものです。3 つめは、
1993年8月に発表された「河野談話」では、慰安婦募集について軍の要請や官憲の関与を
認め、「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。」と人権
蹂躙を認めています。現在の菅内閣も「河野談話」を認める立場ですが、今回の政府答弁
書は、それに矛盾しています。4つめは、「朝鮮半島出身の労働者の移入」を「強制連行」
ではなく「徴用」という用語を適切だとしたことです。日本政府は、1939年に、国策とし
て「朝鮮人労働者募集要項」を決定し、朝鮮総督府の行政機関も協力した募集や官斡旋が
行われました。これにより、炭鉱、鉱山などの重要産業部門に朝鮮人労働者が日本国内に
「移入」させられ、戦争末期の1944年9月から「国民徴用令」における動員が本格化しま
した。
 日本維新の会議員はその後も、衆議院予算委員会で答弁書に関する質問を行い、文科相
は「答弁書をふまえ、発行会社が訂正を検討する」と答弁しました。さらに日本維新の会
議員は、教科書検定規則の文部科学大臣による「記述の訂正」勧告を要求し、文科省は、
「従軍慰安婦」などの用語の使用は、教科書検定規則14条1項「学習する上の支障」にあ
たると答弁しました。
 また、複数の地方議会に、保守系勢力から「閣議決定で『不適切』とされた『従軍慰安
婦』『強制連行』『強制労働』を記述した教科書を採択しないこと」を求める要請が行わ
れています。今年3月に自由社中学校歴史教科書が検定合格したことにより、各地の教育
委員会で、中学校歴史教科書の採択を再度実施する動きもあります。文科省は5月18日に
教科書会社編集担当役員を招集し、閣議決定に基づく訂正申請を誘導するかのような「教
科書関係臨時説明会」を実施しました。埼玉県では閣議決定に関するリーフレット作成を
おこなうと教育長が答弁するなど、来年度使用の高校「歴史総合」の採択にも影響が現れ
ています。
 歴史教育者協議会は、戦前の軍国主義教育の反省から、事実に基づく歴史教育・社会科
教育を研究・実践してきました。教育の自由は、学問・研究の自由と不可分の関係にあり
ます。
 以上のことから、私たち歴史教育者協議会は、政府と日本維新の会による、歴史事実を
否定する動きと教科書への政治介入に断固抗議します。

                                 2021年7月30日 
                    一般社団法人 歴史教育者協議会 社員総会 

2021年8月号特集 実践報告「高校世界史 アメリカ現代史の中のBLM運動」関連資料について

2021年8月号の特集の実践報告「高校世界史 アメリカ現代史の中のBLM運動」
(北條薫執筆)に関して、紙幅の関係で本誌に載せることができなかった
資料Aをこちらに掲載します。授業で生徒に配布したプリントです。是非、本誌と共
にご覧ください。

こちらをクリック

新たな装いで現れた日本軍「慰安婦」否定論を批判する日本の研究者・アクティビストの緊急声明

    新たな装いで現れた日本軍「慰安婦」否定論を批判する日本の研究者・アクティビストの緊急声明

 2020年12月、ハーバード大学ロースクール教授のジョン・マーク・ラムザイヤー氏が書いた論文「太
平洋戦争における性行為契約」が、国際的な学術誌『インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・ア
ンド・エコノミクス』(IRLE)のオンライン版に掲載されました。2021年1月31日に、『産経新聞』がこ
の論文を「「慰安婦=性奴隷」説否定」との見出しで大きくとりあげたことをきっかけに、ラムザイヤー
氏とその主張が日本、韓国そして世界で一挙に注目を集めることになりました。
 タイトルとは異なり、この論文は太平洋戦争より前に日本や朝鮮で展開されていた公娼制度に多くの紙
幅を割いています。実質的な人身売買だった芸娼妓契約について、ゲーム理論を単純に当てはめ、金額や
期間などの条件で、業者と芸娼妓の二者間の思惑が合致した結果であるかのように解釈しています。ラム
ザイヤー氏は、この解釈をそのまま日本軍「慰安婦」制度に応用しました。戦場のリスクを反映して金額
や期間が変わった程度で、基本的には同じように朝鮮人「慰安婦」と業者のあいだで合意された契約関係
として理解できると主張したのです。しかも、その議論とワンセットのものとして、朝鮮内の募集業者が
女性をだましたことはあっても、政府や軍には問題がなかったと、日本の国家責任を否認する主張も展開
しました。
 つまり、この論文は、「慰安婦」を公娼と同一視したうえで、公娼は人身売買されていたのではなく、
業者と利害合致のうえで契約を結んだことにして、「慰安婦」被害と日本の責任をなかったことにしよう
としているのです。
 私たちは、この論文が専門家の査読をすり抜けて学術誌に掲載されたことに、驚きを禁じ得ません。お
そらく日本近代史の専門家によるチェックを受けていなかったのだと思われますが、先行研究が無視され
ているだけでなく、多くの日本語文献が参照されているわりに、その扱いが恣意的であるうえに、肝心の
箇所では根拠が提示されずに主張だけが展開されているという問題があります。以下、主要な問題点を3
つに分けて指摘します。
①まず日本軍「慰安婦」制度は公娼制度と深く関係してはいますが、同じではありません。公娼制度とは
異なり、慰安所は日本軍が自ら指示・命令して設置・管理し、「慰安婦」も日本軍が直接、または指示・
命令して徴募しました。娼妓や芸妓・酌婦だった女性たちが「慰安婦」にさせられた事例は、主に日本人
の場合に一部見られたものの、多くの女性は、公娼制度とは関係なく、契約書もないままに、詐欺や暴力
や人身売買で「慰安婦」にさせられたことが、膨大な研究から明らかになっています。にもかかわらず、
ラムザイヤー氏は日本軍の主体的な関与を示す数々の史料の存在を無視しました。
 何よりも氏は、自らの論点にとって必要不可欠であるはずの業者と朝鮮人「慰安婦」の契約書を1点も
示していません。こうした根拠不在の主張だけでなく、随所で史料のなかから自説に都合のよい部分のみ
を使用しています。たとえば、この論文(6頁)で用いられている米戦時情報局の文書(1944年)には、
703人の朝鮮人「慰安婦」が、どのような仕事をさせられるかも知らされずに数百円で誘拐ないし人身売
買によりビルマに連れて行かれたことを示す記述がありますが、氏はこれを全く無視しています。
②近代日本の公娼制度の理解にも大きな問題があります。公娼制度下での芸娼妓契約が、実態としては人
身売買であり、廃業の自由もなかったことは、既に多数の先行研究と史料で示されています。しかしラム
ザイヤー氏は、ここでも文献の恣意的使用によって、あるいは根拠も示さずに、娼妓やからゆきさんを自
由な契約主体のように論じています。たとえば、この論文(4頁)では『サンダカン八番娼館』を参照し、
「おサキさん」が兄によって業者に売られたことについて、業者はだまそうとしていなかったとか、彼女
が10歳でも仕事の内容は理解していたなどと主張しています。しかしラムザイヤー氏は、彼女が親方に「
嘘つき!」と抗議したことなど、同書に氏の主張をくつがえす内容が記されていることを無視しています。
③この論文は、そもそも女性の人権という観点や、女性たちを束縛していた家父長制の権力という観点が
欠落しています。女性たちの居住、外出、廃業の自由や、性行為を拒否する自由などが欠如していたとい
う意味で、日本軍「慰安婦」制度は、そして公娼制度も性奴隷制だったという研究蓄積がありますが、そ
のことが無視されています。法と経済の重なる領域を扱う学術誌の論文であるにもかかわらず、当時の国
内法(刑法)、国際法(人道に対する罪、奴隷条約、ハーグ陸戦条約、強制労働条約、女性・児童売買禁
止条約等)に違反する行為について真摯な検討が加えられた形跡もありません。
 以上の理由から、私たちはラムザイヤー氏のこの論文に学術的価値を認めることができません。
 それだけではなく、私たちはこの論文の波及効果にも深刻な懸念をもっています。日本の国家責任を全
て免除したうえで、末端の業者と当事者女性の二者関係だけで説明しているからこそ、この論文は、一研
究者の著述であることをこえて、日本の加害責任を否定したいと欲している人々に歓迎されました。「慰
安婦は公娼だった」「慰安婦は自発的な売春婦」「慰安婦は高収入」「慰安婦は性奴隷ではない」……。
これらは、1990年代後半から現在まで、日本や韓国などの「慰安婦」被害否定論者たちによって繰り返し
主張されてきた言説です。今回、米国の著名大学の日本通の学者が、同様の主張を英字誌に出したことで、
その権威を利用して否定論が新たな装いで再び勢いづくことになりました。それとともに、この論文の主
張に対する批判を「反日」などと言って攻撃するなど、「嫌韓」や排外主義に根ざした動きが日本社会で
再活発化しています。私たちは、このことを深く憂慮しています。
 以上を踏まえ、私たちはまずIRLEに対し、この論文をしかるべき査読体制によって再審査したうえで、
掲載を撤回するよう求めます。また、日本で再び広められてしまった否定論に対して、私たちは事実と歴
史的正義にもとづき対抗していきます。今回の否定論は、日本、韓国、北米など、国境をこえて展開して
います。であればこそ私たちは、新たな装いで現れた日本軍「慰安婦」否定論に、国境と言語をこえた連
帯によって対処していきたいと考えています。

2021年3月10日
Fight for Justice(日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会)
歴史学研究会
歴史科学協議会
歴史教育者協議会

2021年3月13日
日本史研究会