投稿者「rekkyo_org」のアーカイブ

2015年2月号(No. 830)特集 悪党と倭寇

rekitiri3502 page3502

  • 悪党と倭寇から見た南北朝時代 村井章介
  • 中世の民間武装民・悪党─悪党の生態を歴史的に見る 新井孝重
  • 倭寇とは何か 橋本雄
  • 実践/高校日本史 高校生と「倭寇」を学ぶ─境界に生きる人々の授業から 北尾悟
  • 韓日の子どもたちの倭寇認識と教科書記述─在日韓国人学校在学中の生徒を例にして 朴星奇〔訳:三橋広夫〕
  • 遺物・遺跡にみる対馬の「倭寇」と日朝関係 山口華代

小学校の授業 国語・総合・社会科 3年 「所沢飛行場跡調べ」─つないできたバトン 宮崎令子 中学校の授業 歴史 倭寇と勘合貿易 小石都志子 高校の授業 日本史 日本国憲法をどのように教えてきたのか─日本近現代史の中で 浅井義弘 連載 子どもの目 ▼核心に迫る目 山田真理 窓 ▼雑誌『種蒔く人』─社会運動する文学者たち 大和田茂 モノ教材が語りだす② ▼糸紡ぎ歴三〇年─紡錘・糸車・織機 鳥塚義和 世界を歩く67 ▼マラウイを知っていますか(2)援助慣れする途上国 吉野華恵 映画を語ろうか? ▼「旅立ちの島唄─十五の春」 松原誠司 各地からの便り⑬ ▼和歌山県 若手結集「学ぶこと」は「楽しいこと」 横出加津彦 歴教協第67回東北・宮城大会/二〇一五年 負けねど! 東北② ▼復興に向けて(宮城) 石垣好春 ▼原子力半島・下北(青森) 寺田肇 探訪ミュージアム67 ▼白鹿記念酒造博物館(兵庫県西宮市) 山内英正 読書室『地理授業で使いたい教材資料』『代表制という思想』『稗貫和賀 百姓一揆の跡を訪ねる』 駅弁掛紙から見た戦時下の民衆意識 宮瀧交二 実践/中学歴史 考えさせる授業─ベトナムの中学校での試み グエン・クゥオ・ヴン ●写真●伝言板●北から南から─歴教協各県支部ニュース472●今月の動き●読者のひろば●次号予告

 

 

2015年1月号(No. 829)特集 大戦終結70年とアジア・太平洋

rekitiri3501 page3501

  • 大戦終結後70年をアジア・太平洋地域はどのように歩んだか 中野聡
  • 「戦後」なきアジアと日本の「戦後70年」 鄭栄桓
  • 日本における「過去の克服」に向けて─その課題と展望 本庄十喜
  • 今なぜ太平洋地域の学習か─大学の世界史概説の講義から 木村宏一郎
  • 21一世紀東アジアの平和と共生をつくる若者たち 佐藤義弘

小学校の授業  6年 絵図で比べる江戸時代と明治時代 里見千瑛 中学校の授業 公民 自転車撤去料から地方自治を学ぼう! 佐藤エリカ 高校の授業 日本史 視聴覚教材を中心にした日本近現代史の授業 北田邦夫 連載 子どもの目 ▼復興支援研究会 松崎康裕 窓 ▼ロシア史からユーラシア史へ─最近の研究動向と歴史教育の課題 下里俊行 モノ教材が語り出す① ▼縄文人ってすごい! ─黒曜石の矢じり 鳥塚義和 地域─日本から世界から227 ▼阪神淡路大震災二〇年─被災者とともに大震災を生きる 桐藤直人 世界を歩く66 ▼マラウイを知っていますか(1)Warm Heart of Africaと呼ばれる国 吉野華恵 映画を語ろうか? ▼「きっと、うまくいく」 松原誠司 歴教協第67回東北・宮城大会/二〇一五年 負けねど! 東北① ▼東北さ来てけさいん! 本郷弘一 探訪ミュージアム66 ▼日本二十六聖人記念館(長崎市) 末永浩 読書室 『日本古代の周縁史─エミシ・コシとアマミ・ハヤト』『Q&Aで読む日本軍事入門』『百舌鳥古墳群をあるく─巨大古墳・全案内』『木村礎研究─戦後歴史学への挑戦』『戦後史のなかの福島原発─開発政策と地域社会』『日清戦争─近代日本初の対外戦争の実像』 5年生の授業開き─古地図を年代順に並べ替えよう 大谷伸治 《リレートーク》─いま、新しい世界史の理論にどう向き合うか⑤ 「新しい世界史の理論」は世界史教育にとって新しいか 河合美喜夫 シ ンガポールの歴史教科書での「日本のファシズム」 河原紀彦 ●写真●伝言板/35●北から南から─歴教協各県支部ニュース471●今月の動き●読者のひろば●次号予告

4月28日政府主催「主権回復」記念式典開催の中止を求めます

3月7 日の予算委員会で安倍首相が「本年4月28日( サンフランシスコ平和条約発効日)に、政府主催の記念式典を実施する方向で検討している」と表明したことに対し、多くの人々が驚愕し怒りを表しています。

安倍首相は、「条約が発効し、わが国は主権を完全に回復した。独立を手に入れたわけだ」と強調しています。しかし、サンフランシスコ平和条約第3 条で沖縄、奄美、小笠原などの島々は、独立どころかアメリカの施政下に置かれました。さらに、サンフランシスコ講和会議には、日本が植民地として支配した朝鮮半島の大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国、日本が侵略した中国は参加できませんでしたし、ソ連は条約に調印していません。日本国内では単独講和に反対して全面講和を求める大きな運動がおこりましたが、日本政府はそれを無視し、サンフランシスコ平和条約を締結し、さらに日本がアメリカの従属下に置かれる日米安保条約も締結しました。その結果結ばれたサンフランシスコ平和条約は日本にとっては「屈辱の条約」であり、その後のアジア諸国との葛藤の火種を残した条約となりました。日本の領土問題は未解決として残り、その後沖縄では、米軍基地建設のために「銃剣とブルドーザー」による土地強奪が行なわれ、「基地の中の沖縄」の苦しみと闘いの原点にもなりました。沖縄県祖国復帰協議会ではこの条約が発効した日を「4・28沖縄デー」として、毎年復帰要求県民大会を開き、沖縄と与論島間の北緯2 7 度線上で海上集会をもち、本土代表と闘いの連帯を固める日にしてきたのです。

「基地のない平和な島を」という人々の願いは、復帰から41年目の今なお実現していません。沖縄では米兵による犯罪は後を絶たず、県民は基地被害に苦しんでいます。2012年9 月9日の欠陥機「オスプレイ」の配備強行に反対する沖縄県民集会には、宮古・八重山の離島に住む人々を含め10 万3 千人に上る人々が参加しました。大会決議で、「沖縄県民は、米軍基地の存在ゆえに幾多の基地被害をこうむり、1 9 7 2 年の復帰後だけでも、米軍人等の刑法犯罪件数が6千件近くに上るなど、米軍による事件・事故、騒音被害も後を絶たない状況である」、「沖縄県民はこれ以上の基地負担を断固として拒否する。そして県民の声を政府が無視するのであれば、我々は、基地反対の県民の総意をまとめ上げていくことを表明するものである」と述べています。

日本とアメリカの同盟強化をはかる政府は、3月22日に辺野古埋め立て申請書を沖縄県に抜き打ちに提出し、県民の怒りをいっそう高めました。このような沖縄の状況は、まさにサンフランシスコ平和条約にその根源があるのです。

私たち歴史教育者協議会は、沖縄の復帰以前から沖縄の現実を学ぶ実践に取り組み、機関誌で特集を組んできました。沖縄が復帰した1972年と、戦後50年の1995年には沖縄で大会を開催しました。ここではサンフランシスコ平和条約と安保条約との関連の中で沖縄の置かれた現実をどう教えるかを議論してきました。また、日本の戦争を自衛戦争だったとする歴史の偽造が進められ、教科書検定で「強制集団死」の記述を変更させられたことに対し、その復活を求め、大江岩波沖縄戦裁判勝利のための支援運動に取り組んできました。沖縄県歴教協は、琉球文化や沖縄戦の悲劇や基地の実態を調べ、学び、伝える実践に取り組むとともに、基地建設反対、沖縄の自然を守る運動に積極的に加わってきました。

安倍政権は、日本国憲法96条改悪を突破口に、戦争放棄を明記した憲法9条の改悪をめざしています。平和条約締結60年を経て、4月28日を「主権回復の日」とする狙いは、独立国として「自主憲法」を持とうと主張し憲法改悪へ世論を誘導しようとすることにあります。サンフランシスコ平和条約は、戦争を拒否し平和追求を明記した日本国憲法と逆行し、沖縄を切り捨てた日米安保体制と対米従属の出発点になった条約です。その発効日を「主権回復の日」として祝うことは、歴史の真実に反することです。日本国憲法を生かし、地域に根ざした平和・民主主義の実践に取り組んでいる歴教協は、「4月28日主権回復の記念式典」の開催を中止することを強く求めます。

2013年3月31日
一般社団法人歴史教育者協議会臨時社員総会

『江戸から東京へ』―政治家の意向を受けて内容が変えられる 『教科書』があってはなりません

東京都教育委員会(都教委)は、2009年から東京都独自の科目として「江戸から東京へ」を設置し、その「教科書」として2011年に『江戸から東京へ』を発行しました。都独自科目の教材なので、文科省の検定を受ける必要はありません。猪瀬直樹都知事(発言時は副知事)は、「なんの授業でもいい、この教材をとにかく使うようにと指示した」「とにかく一度は生徒が読むようにしたわけで、必修だよ」と、この「教科書」に込めた思いを語ってます(『正論』2012年5月号)。そして、2011年度には都立高校の全生徒と教員に、2012年度には新入生全員に配布されました。その数は10数万部になります。

2011年に発行されたこの『江戸から東京へ』(以下『11年度版』)には、監修者として東京都江戸東京博物館館長、横浜市ふるさと歴史財団理事長、元文部相視学官、都立高校副校長(2人)の計5人、執筆者として東京都立高校教員7人の名前が記されています。その後2012年度版、2013年度版と改訂され、一部が書き換えられました。書き換えの例を挙げると、南京事件で「多数」「民間人」の語句が消されて事件をあいまいにする表現に変えられたり、日本の戦争は侵略ではなく自衛のためだったとするコラムが付け加えられたり(『12年度改定版』)、関東大震災の記述で朝鮮人に対する「虐殺」という表現が削られるなど(『13年度改定版』)、語句の変更にとどまらず、何をどう学ぶかという基本に関わる内容におよんでいます。

ここで重大な問題は、この書き換えが、監修者や執筆者の意思・発議によるものではないどころか、合意を得ることすらなく進められてきたことです。『正論』2012年5月号緊急鼎談「『日本は自衛のために戦った』ーマッカーサー証言を取り上げた都立高校教材の衝撃」(東京都副知事<現都知事>猪瀬直樹/高崎経済大学教授八木秀次/東京都議会議員<当時>野田数)には、育鵬社教科書をつくった右翼的組織「教育再生機構」の描く歴史を、野田都議が都教委に持ち込んで書き換えさせた経緯や、猪瀬知事の歴史観が当然のように「教科書」に反映されたことが語られています。

監修者や執筆者の意向が顧みられないことは普通の出版物ではありえないことです。ましてや、教育的配慮と検討を必要とし、一字一句まで慎重さが求められる教科書で、政治の働きかけが優先され、関係する専門家がないがしろにされるなどということは言語道断です。

都教委は、直ちに『12年度改定版』『13年度改定版』の「教科書」の使用を中止すべきです。また、この事態が見すごされることがないように広く知らせ、世論を喚起していくことを呼びかけます。

2013年3月31日
一般社団法人歴史教育者協議会臨時社員総会

震災・原発、被災者の立場にたった教育を進めましょう

震災と原発事故による被災者の救援と被災地の復興は、2年たった今も遅々として進んでいません。30万人を超える人々がまだ避難生活を余儀なくされています。家族や家、職や故郷を失った被災者の生活再建は、何をおいても早急に進めなければなりません。被災者・被災地の立場に立ったインフラの整備や産業の復興も急務です。

3月18日には、福島第一原発で停電がおきて冷却停止が長時間続き、事故の「収束」とはほど遠い状態であることが浮き彫りにされました。政府・東電は、原発事故の原因究明と事故の責任を明確にしなければなりません。放射能被害の賠償も遅れが指摘されています。東電は、加害者として誠実に問題解決にあたるべきです。

子どもの健康被害・内部被曝問題についても真剣な取り組みは進んでいません。子どもたちに安全・安心な環境を作り出すことは、大きな課題です。すべての子どもたちがすこしでも安心できるように健康診断を徹底し、早めの治療・対策ができるような援助・制度の確立が求められます。野外で安心して遊べない子どもたちへの長期・短期の集団疎開や保養の取り組みなどは、まだ実現していません。これらの問題を一部のボランティアまかせにせず、国や行政の本格的な取り組みが求められます。

文科省の放射線副読本は、水仙の花からも自然放射線が出ているといった写真をのせて自然界の放射線の存在を示したり、医療界でのレントゲンの有益性を強調したりして、少々の被曝は大丈夫だと教えるような内容になっています。これは自然放射線と人工放射線が人体に与える影響の違いをあいまいにし、医療をもち出して放射線の危険性を隠そうとするものです。しきい値がないといわれる内部被曝の危険性を教育の場で明確にして取り組んでいくことが大切です。子ども自らが放射線から身を守る実際的な手だてを含め、放射線教育の充実は急がなければなりません。

国民の願いや運動が十分に報道されない中で、原発再稼働が安易に進められようとしていること、エネルギー供給の実情、放射性廃棄物問題、被曝労働問題など、事実を正確に知らせることは欠かせません。それらを通して原発の危険性、脱原発とエネルギー問題などの認識を深め、さらに現代社会をどうとらえ、構築していくのかを考えさせる実践を、小・中・高・大と発達段階に合わせ、いっそう進めていきましょう。事実と向き合い主体的な学びを作り上げることを通じて、主権者としての力を育てましょう。

2013年3月31日
一般社団法人歴史教育者協議会臨時社員総会

河村たかし名古屋市長の南京事件否定発言に抗議し撤回を求める
―あわせて、南京事件の事実を知る学習を広く呼びかける―

2012年2月20日、河村たかし名古屋市長は、姉妹友好都市である南京市の共産党市委員会訪日代表団との懇談の場で、南京事件について「通常の戦闘行為はあったが、虐殺といわれるような南京事件というものはなかったのではないか」と述べました。この河村市長の発言に対し、国内外から批判の声が上がり、南京市は、河村市長が南京大虐殺の史実を否定し南京市民の感情を傷つけたとして、名古屋市との交流の停止を表明しました。河村市長はその後も、市議会や記者会見で、「30万人もの非武装の市民に、旧日本軍が大虐殺をしたとは思っていない」と、南京事件否定発言を繰り返しています。

南京事件(南京大虐殺)は、1937年12月に日本軍が当時の中国の首都南京を占領する前後に、中国人の捕虜、一般市民などを大量に虐殺した事件です。殺害、放火、強姦、略奪などの残虐行為は、南京占領前後3か月以上にわたり続きました。その事実は、南京市内外に住む多くの目撃者や生存者によって、語り継がれ、南京市民に記憶されています。また、陣中日誌や個人の日記・手紙など日本軍兵士によって残された証言や書かれた記録、南京国際安全区にいたドイツ人ジョン・ラーベやアメリカ人宣教師マギー牧師の証言やフィルム映像など、多くの歴史資料によって明らかになっています。
殺害された正確な人数を確定することは、たいへん困難です。しかし、今まで調査・研究を積み重ねてきた研究者は、陣中日誌などに記された捕虜などを殺戮・処刑した人数累計や、中国側の資料による南京の兵員数の研究、犠牲者の埋葬記録の再調査などから、8万人以上の捕虜が虐殺され、民間人の殺害とあわせて10数万人以上が犠牲になったと推定しています。

南京事件は、日本政府も公式見解で事実を認めています。日本政府が提案して2006年(安倍内閣当時)から始まった日中歴史共同研究の報告書には、日中戦争が日本の侵略戦争だったという基本的な認識の上にたち、日本側も南京虐殺を歴史的事実として叙述し、中国側は虐殺行為の内容について、日本側は原因を中心とした分析を報告しています。
また、1999年に東京地方裁判所で出された「731・南京大虐殺・無差別爆撃事件訴訟」(伊藤剛裁判長)の判決では、南京事件について「11月末から事実上開始された進軍から南京陥落後約6週間までの間に、数万人ないしは30万人の中国国民が殺害された。いわゆる『南京虐殺』の内容等につき、厳密に確定することは出来ないが…『南京虐殺』というべき行為があったことはほぼ間違いないところというべきであり」と事実認定が示されています。歴史の事実は政府の公式見解や裁判所の判決で決まることではありませんが、南京事件が、政府や裁判所も否定できない事実であることは明らかです。
河村市長の「虐殺はなかった」との発言は、敗残兵でも投降者でも中国兵であり「通常の戦闘行為」にちがいないという一部の論調と軌を一にするものです。しかし、戦意を失って捕虜となった人々を殺害した具体的な内容は、戦闘行為とはほど遠い文字通りの虐殺にほかならないものです。

私たちは河村市長に対し強く抗議し、直ちに発言を撤回し、中国国民および日本国民に対して、正式な謝罪を行うことを求めます。

現在、見逃せない重大なことは、自治体の長や政治家が、河村発言を支持する姿勢を示していることです。大都市や国の政治家の発言の影響力は大きく、アジアの人々の大きな不安や批判を招いています。「新しい歴史教科書をつくる会」も、政治家や有識者を集め、河村発言を支持し、南京事件はなかったとする国民運動を広げることを表明しています。2011年教科書採択では「つくる会」系の中学校歴史教科書が採択率を上げましたが、河村発言に力を借りて、戦争賛美、アジアの国々蔑視の歴史教育を広げようとする、こうした動きを止めなくてはなりません。
私たちは、南京事件の事実をしっかりと学び、このような発言、動きを許さない世論を形成していくことを広く呼びかけます。新聞をはじめとするマスコミが、南京事件の研究をきちんと取材して報道し、国民が事実を学ぶために、積極的な役割を果たしていくことを強く求めます。
私たち歴史教育協議会では、今日まで、南京事件の研究から多くを学び、歴史教育の実践を行ってきました。子どもたちが歴史の事実を学び、東アジアの平和な未来について考えていくことができるように、さらなる研究と実践交流を、広く進めていきましょう。

2012年3月25日
一般社団法人歴史教育者協議会社員総会(代表理事山田朗)

大阪の「教育基本条例案」の撤回を求め、幅広い運動を呼びかけます

今日の日本の政治は、大きな役割を果たすことが期待されるにもかかわらず混迷を深めてい ます。背景には、原発に象徴されるエネルギーの問題、経済のあり方など、世界も日本もひと つの大きな転換期を迎えていることがあります。こうした中で、社会のあり方に大きな影響力 を及ぼす教育に政治が口を挟もうとすることがおこりがちです。大阪の「教育基本条例案」は まさにそうしたものです。その前文では、日本では行政と教育の関わりが抑制されすぎている、 選挙の結果として誕生した知事や議会が教育に関わるのは当然で、そうしないと大阪の教育は 世界から取り残されるなどと述べ、条例全体を通して、知事や議会が教育を動かそうとするも のとなっています。

これは、見過ごしてはならないものです。政治と教育の関わりがどうあるかは、文字通り未 来を生きる子どもたちに大きな影響をもたらす問題です。私たちは、将来に禍根を残さないよ うにしなければなりません。

敗戦後の1947 年に制定された教育基本法では、教育への政治の権力的な介入を強く戒め、 教育行政の役割を「諸条件の整備」に限定しました。これは、戦前の日本では政府が教育を統 制し、国の政治に無批判に従う国民が生み出されてきたことを強く反省したからです。戦前の 教育の結果、多くの国民は相手の国の人々のことなどを考える機会もなく「天皇は神様だ」「日 本は正しい戦争をやっている」「負けるはずがない」などと信じこまされて、戦争に無批判に 協力し、国の内外で大きな犠牲を生みました。国策に従順であることが結果として大きな過ち を生み出したことは、今日の原発をめぐる問題でも同様です。「原発は安全」「事故が起こる はずがない」という教育が進められ、異論は排除され、本当に必要な原発に関する教育が行わ れないできました。私たちは、痛恨の念を持って、今回のような事故を起こさないための知恵 を育てる教育の必要性を痛感しています。

政治が教育を動かすとき、必ずといっていいほど、都合の悪いことを規制したり力ずくで排 除したりします。今、あらためてこの戦後日本の教育の出発点の原則を確認する必要がありま す。2006 年に改定された教育基本法でも、「教育は、不当な支配に服することなく」という文 言が残され、政治的な力が教育を動かすことを戒めています。私たちは、日本社会の民主主義 の原理原則の問題として、この条例案は制定されてはならないものと考えます。

また、この条例案では、文字通り力ずくで学校を経営するための手段を定めていることも見 逃せません。知事が決めた目標を受けて教育委員会が指針をつくり、それを校長が具体化して 「幅広い裁量を持って学校運営を行う」としています。教員はその校長の運営に従わなければ ならず、さらに「同一の職務命令に対して三回目の違反」をした教員に対しては「免職」の処 分をするという、校長の方針と合わない教員を力で排除することが記されています。
こうした中で、教員だけでなく子どももまた、まるで「コマ」のように教育の方針によって 自由に動かすことのできる存在とされています。「グローバル社会」への対応を理由に競争を あおり、一人ひとりの子どもの成長を大切にするような発想はみられません。教員を萎縮させ る規則や処分で学校を管理・運営することは、子ども中心の学校づくりが考えられいないこと につながっています。

この条例案は現在の日本社会の政治と教育の関係の基本を覆すもので、運用を監視すればい いという対応で済ませてはなりません。教育基本法のみならずさまざまな法に抵触することが 文科省からも指摘され、大阪市議会に続き堺市議会でも同様の条例案が否決されています。私 たちは、提案者にこの条例案を直ちに撤回することを要求します。そして、すでに起きている この条例案に反対する動きと連帯し、さらに全国で幅広くこの条例案の撤回を求める運動を進 めていくことを呼びかけます。

2011年 12月 18日
一般社団法人歴史教育者協議会理事会/ 常任委員会

「日の丸」「君が代」の強制を許さず、思想良心の自由・教育の自由を守りぬこう

今年5月以来、最高裁は、東京・広島・北九州での「日の丸」「君が代」強制に関する9件について相次いで判決を出し、すべてについて教職員の側の上告を棄却しました。これらは、「国歌斉唱時に教職員が国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」を命じた通達、校長の職務命令などを「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定した憲法第19条に違反しない、と判断したものです。

一連の最高裁判決に共通する論理は、

①「君が代」起立斉唱は一般的、客観的儀礼的所作である。
②職務命令は思想・良心を直ちに否定するものとはいえないが、間接的制約となりうる。
③しかし職務命令には、行事の秩序・公務員の職務などから、必要性・合理性があるので許容される。

というものです。これは、行政に追随して「憲法の番人」という職責を投げ捨てた不当判決といわなければなりません。

少数意見の宮川裁判官は、<憲法は個人の多様な思想及び生き方を尊重し、寛容な開かれた社会であることを理念とし、少数者の思想良心を多数者のそれと等しく尊重し、思想・良心の核心に反する行為を強制することを許容していない。「日の丸」「君が代」を軍国主義・天皇制絶対主義のシンボルとみなし、平和主義・国民主権と相容れないと考えている人もいる。起立斉唱しないのは、人権の尊重・自主的思考の大切さを強調する教育実践を続けてきた教育者としての魂というべき、教育上の信念を否定することになると考えたからだ。職務命令の必要性、合理性を厳格に検討すべきである>(要約)と多数意見に反対しました。異例なことに、多数意見12人中7人が補足意見を述べましたが、その多くが強制は望ましくなく、処分には慎重であるべきという趣旨のものです。ここには最高裁が判決に確信を持てず、行政の暴走を追認することへのためらいが読み取れます。

大阪府では、今年6月に教職員に起立斉唱を義務付ける条例制定が強行されました。「日の丸」「君が代」の強制を梃子に、教職員に対する管理統制、職階制の強化、職員会議の形骸化などを通じて、学校教育を丸ごと支配しようとする動きが強まっています。そのうえ教職員に対する強制にとどまらず、生徒に対する強制も強まっています。多数意見の補足意見にも<肝心なことは、画一化された教育ではなく、熱意と意欲に満ちた教師により、生徒の個性に応じて生き生きとした教育がなされることであろう。本件職務命令のような強制が、教育現場を疑心暗鬼とさせ、無用な混乱を生じさせ、活力をそぎ、萎縮させるというようなことであれば、かえって教育の生命が失われる。>というものがあります。

一連の判決に意を強くして、反動的な行政が強制に拍車をかけてくることが予想されます。 それを跳ね返し、補足意見や反対意見を裁判官の言い訳とさせず、強制の手を抑える武器にしていかなければなりません。そのためには教職員と保護者・市民が一体となって、強制を許さず、教職員と生徒が自由にのびのびと教え、学べる学校をつくる運動を今こそ広げる必要があります。

「日の丸」「君が代」関連の裁判はまだ続々と最高裁にかかっています。中でも一審で「通達と職務命令による強制は憲法違反」の判決が出ている東京の「予防訴訟」と、東京高裁が「不起立行為は、生徒に対し自分の歴史観、世界観に基いて正しい教育を行いたいという真摯な動機によるやむにやまれぬ行動だった」として、裁量権の逸脱・濫用を理由に懲戒処分を取り消した「東京『君が代』裁判一次訴訟」の上告審がこれから始まります。憲法と教育を守る運動と一つのものとして、これらの裁判を仲間の輪を広げながら支えていきましょう。

2011年7月29日
一般社団法人歴史教育者協議会定時社員総会/会員集会