Q&A もっと知りたい靖国神社
                       大月書店 定価(1100+税)円

はじめに

 昨二〇〇一年、小泉首相が靖国神社に首相として公式参拝すると言い出して大きな問題になりました。賛成・反対の議論がうずまくなか、結果としては、当初公式参拝を願っている人たちが求めていた八月一五日を避けて、八月一三日に公式参拝を実行しました。そのときの世論調査では、まあそれでいいじゃないかという意見が多数でした。でも本当にそれでいいのでしょうか。一五日を一三日に変えればすむ程度の簡単な問題なのでしょうか。さらに今年(二〇〇二年)四月、突然、小泉首相はふたたび靖国神社に参拝し、国内外から批判がおこりました。こうしたことについて、靖国神社の問題の根本にさかのぼって読者のみなさんとともに考えてみたいというのが、本書の目的です。

 そのために、靖国神社のすべてにわたって、できるだけわかりやすく解説したいと考え、靖国神社の歴史から現在までを、四五のテーマにまとめ、一問一答方式で述べてみました。靖国神社のイロハから知りたいとお考えの方にも、ぜひ手にとってお読みいただきたいと思います。

 靖国神社には戦争で亡くなった人たちが祀られている、戦争の犠牲者をみんなで尊敬し追悼するのは当然じゃないか、とお考えの方も多いと思います。戦争の犠牲者を追悼し、ふたたび戦争をくりかえさない気持ちをかためようということには、おそらくだれも異論はないでしょう。しかし、靖国神社は、すべての戦争犠牲者を平等に祀っているところで
はありません。くわしくは本書で述べていますが、靖国神社にはだれが祀られていて、だれが祀られていないのか、この点を確認することから靖国神社の問題を考えなくてはならないのではないでしょうか。首相の公式参拝という形で靖国神社を国家が公的に支援することにたいして、国内外からさまざまな異論・批判がおこり問題になる、一番の原点がここにあると思われるからです。また、靖国神社に祀られることが名誉だという考えがどんな結果をもたらしたかということを、歴史のなかから考えることも大事です。

 さて、首相の靖国神社公式参拝は、一九八五年八月一五日の中曽根首相以来のことです。それ以後昨二〇〇一年までは、首相の公式参拝は行われていませんでした。なぜでしょうか。それは、いま述べたような簡単にはすませられない問題が背後にあって、国内外、とりわけこれからの日本が仲良くしていかなければならないアジア諸国から、強い批判があるからです。その点も本書ではとりあげています。

 ではなぜ二〇〇一年に、そういう問題を押しのけてまで小泉首相は靖国神社公式参拝に踏み切ったのでしょうか。その答えは簡単ではありませんが、「戦争への備え」(有事法制)とともに憲法「改正」がいま急いですすめられようとしていることにも関係がありそうに思えます。本書をもとに、そんなことにも考えをめぐちせていただければ幸いです。
  二〇〇二年六月                    編 者