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 歴教協第26回中間研究集会−神戸大会から東京大会へ−

 2008年1月20日、東京・ラパスホールにおいて、歴教協第29回中間研究集会が行われました。

1、テーマ「格差社会を乗り越える教育」
  働いても働いても、豊かになれない…。どんなに頑張っても報われない…。今、日本では、フルタイムで働いているのに、生活保護水準以下の暮らししかできない「働く貧困層」が、急速に増大している。低所得世帯では、食べていくのが精一杯で、子どもの将来に備える余裕はなく、若年労働者の約4割が非正規雇用という現実を前に、未来に希望を持てない若者が増えている。未来を描けず、学びから逃走する子ども…。競争のストレスに押しつぶされる子ども…。昨年の神戸大会でも、深刻な格差社会の中の教育が、様々に報告、論じられました。
 「格差社会を乗り越える教育」を、どのように築いていけるのか。第26回中間研究集会では、3つの報告をもとに、この大きな課題について、考えを深めることができました。

2、報告と質疑応答、意見
(1)佐貫浩氏「格差社会を乗り越える教育」
● 概要
 1990年代からの雇用政策によって、格差は急激に広がり、今や日本の子どもの3分の1は貧困家庭にいる。新自由主義は、広がる格差に対し「自己責任論」という強烈なイデオロギーを発しているが、そもそも「自立」とは、始めから内在するものでなく、社会の支えがあって、そこに向かっていけるものである。「労働」が人間の幸せを実現するものでなくなり、競争に敗れた人間には、「自己責任」という切り捨ての論理が横行する社会は、子どもから、希望と意欲という生きる力を奪っている。学習指導要領の「生きる力」は、市場での労働能力であり、子どもにとって「競争に勝たないと生きられない」というメッセージ、ダメージになっている。
 今を生きられない子供たちが、どうしたら、自分を受け入れ、生きる力をつけていけるのか・・社会科で「生きる力」はつけられる。社会科とはそのような教科である。
 「生きる力」を支える学力概念論は、頂点に「価値観、思想」を置き、「習熟のプロセス」を重視するものだ。(注1)
 学校までが、戦場のようになっている状況で、弱い者こそ生きていける新しいコミュニケー ションを拓くことが求められている。上級生からの「わかることは権利」という手紙を契機に、 「自分の困難な状況は、歴史的、社会的なしくみの中で作り出されたものである」という認識に至り、そこから主体的な学びを展開した大阪千代田高校の実践から学ぶものは大きい。(注2)
 民主主義政治システムをはじめとして、生徒に立ち上げたい様々な社会像がある。環境問題の解決に向かう社会像は、今日、大きな意味を持つ課題であり実践を広げていきたい。(注3)

<質疑応答、意見>
 佐貫さんの学力概念論について、PISA型学力との関係について質問が出た。「生きる力」を支える学力概念論を、授業を通して検証していくことが期待される。
<参考文献>
注1 佐貫浩「生きる力の獲得と学力の形成」『教育』国土社07年8月号、佐貫浩「習熟について―知識を生きる力へ組み込むプロセス―」『教育』08年2月号
注2 山崎隆夫実践 『現代と教育』73号、桐書房07年6月、山崎隆夫「学びの中に『希望』をつむぐということ」『人間と教育』55号、旬報社07年
注3 『日本の科学者』07年12月号、本の泉社 特集「地球温暖問題をどう受け止めるか」

(2)糀谷陽子氏「東京の教育の現状と批判」
● 概要
 新自由主義教育「改革」が、全国に先駆けて行われている東京では、子どもの成長にとって、極めて不適切な教育政策が、次々と行われてきた。学校組織に営利企業のように置かれたポスト、職員の分断をはかる差別昇給制度、「周知徹底」の場とされた職員会議…本来、学校が決めることが奪われ、小学校英語、夏休み短縮、土曜の補習などが、次々と押しつけられてきた。都立高校への差別化が顕著で、中学で進路選択をしにくいほど、複雑に普通高校の多様化が進み、競争させられている。教師に自主的権限を認めず、教育の専門家として処遇されないことが、一番の問題であると感じている。
 これらの「改革」は、教育委員会の独立性を無視して進められ、今まで蓄積してきた東京都の民主的な教育を、つぶすことが目的としか思えない強引なものである。
 これに対して、47年教育基本法、憲法26条をよりどころとし、子供を中心に「人間が自立 していくための教育」を掲げ、地域と共同して闘っている。具体的には、卒業式で生徒制作のパネルを掲げる取り組みや、地域での100万枚チラシ配布や教育集会などを行ってきた。

<質疑応答、意見>
 主幹制度、研修センター、和田中の夜ゼミ、私立中学の現状などについて、質問が多数出た。「次々に攻撃が来るが、共感してくれる人とつながり、子供を基本として取り組んでいく」、「担任、職場、組合、歴教協などの足元の活動を大切にしていきたい」等、決意の発言があった。また、「東京大会に、多くのレポートを持って集まってほしい」という全国への要望があった。

(3)滝口正樹氏「地域・学校・生徒にねざす教育実践」
● 概要
 教室のキーワードは「わかちあい」だ。行事の団結や不登校の仲間への気遣い、ネットの掲示板を通し、仲間作りを深めてきた生徒達。教師はその生徒間をつなぐバイパスの役を負っている。社会科も、学校作りの中で再構築し、「学び合う共有空間」の創出をめざしてきた。
 社会科の全体像として、労働を基底におき、子どもの視点を重視し、 地域、日本、世界を串刺しにした学習の核となる教材を探求してきた。
 そのような実践として、「原発労働者のお母さんとの交流」「典子は今 」「マンデラ大統領への手紙」。最近の実践として、児童労働問題に向き合った「クレイグ少年との出会い」、「FTCJ(フリー・ザ・チルドレン・ジャパン)の中島早苗さん」「フィリピンの少女ピアさんとの出会い」などがある。
 東京大会の地域実践報告「次代を担う若者が、大人社会に向かってメッセージを発信する」 に向けて、99年卒実行委員が、卒業生にアンケートを依頼している。返信から中学社会科授業の「忘れ残り」を拾い、生かしていきたい。

<質疑応答、意見>
 社会人となった卒業生の意見のとらえ方の難しさや、滝口さんのような教材発掘する授業を受けた生徒が、大人になって考えることが明らかになる地域実践報告を期待する意見が出た。
 「格差社会を乗り越りこえる社会科」の教材には、どのような視点が必要か、どのようなアプローチがあるのか、また「子ども」をどうとらえるかなど、大きな課題について活発に意見が交換された。東京大会での、具体的な実践交流の中で論議を発展させていきたい。
<参考文献> 滝口正樹『中学生の心と戦争』地歴社、2004年