第54回歴教協三重大会の雰囲気より 全体要約
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2002.8.1 伊勢市観光文化会館

戦争の歴史に学び、現代の戦争を考える――21世紀の平和をどうつくるか――

明治大・山田 朗 氏

l なぜ戦争の歴史を学ぶのか? 私たちは「二度と戦争を繰り返さないため」と思いがちだが、多数の軍事・戦争研究は「次の戦争のために」である。平和教育を進める場合、どういう点に目配りする必要があるのか。「過去の戦争の実相を伝える」ことは大事だが、そこから「戦争はひどかった、こんなに悲惨だった」というだけでは、現在の戦争を否定する力とは十分にはなりえない。「過去の戦争」を否定しても、「未来の戦争」を肯定する場合は十分ある。「現在の戦争」「現在の戦争の準備」をも視野に入れる必要がある。

l 憲法9条は「武力による威嚇」をも否定している。「権力による政治・パワーポリティクス」を否定していることは重視すべき。「次の戦争」のためでない、「戦争の克服」のための戦争・戦争史研究でなければならない。「過去の戦争の見直し」「現実に進行する戦争・戦争参加の既成事実」の両面から考えなければならない。そうしないと、戦争認識の変化に対応できなくなることがある。

l 「戦争できる」国づくりを考える3つの検証点。「ハード(兵器)」「システム(法・組織)」「ソフト(人材・価値観)」。今一番進んでいるのは「ハード」。次に「システム」、「戦争をしよう」としている人々にとって遅々として進んでいないのが「ソフト」。

l 「ソフト」と「歴史修正主義」・・・・「アウシュヴィッツのウソ」なども一見「科学っぽい」根拠を出してくるのが特徴。「壁から検出されたのは殺虫剤の成分」という具合。しかし「濃度の濃い殺虫剤を狭い密室でまいたらどうなるの?」とは考えない。

l 大きかった「湾岸戦争」。「抑圧された人々を救うための戦争」「正義の戦争」という認識。しかし、「戦争の真相」が伝えられていないことが重要。「ピンポイント爆撃」は本当に軍事施設とは言えなかった。「油まみれの海鵜」も戦争とは無関係だった。「イラクが放ったスカッドミサイルが、多国籍軍のパトリオットミサイルに打ち落とされた」も事実とは異なっていた。パトリオットミサイルは、当たろうが当たるまいが炸裂するようになっている。真実は1発も当たっていなかった。戦争における「情報戦」は重要である。映像は事実であっても、そこに加えられる説明にウソをつけるのが常套手段である。

l 「自衛隊の掃海艇の海外派遣」は重要な転機だった。それ以降、自衛隊の海外展開、兵器体系、法制度(有事法制)は急進展している。

l アジア諸国から突きつけられた「戦後補償を求める訴訟」。1990年代以降、50件以上の訴訟が起きている。1995年を境に「過去を消し去ろう」とする動きも活発化している。小林『戦争論』シンドロームは、「2」が発売されることによって再び盛り返される雰囲気が出ている。

l 「過去の時代はその時代の価値観で歴史を見るべきだ。その時代はその時代でしかたない」とする考え方がある。では「縄文時代の価値観で縄文時代を見る」とは可能なのか? 「現代人の価値観で」歴史は「描く」もの。しかしこれでは、何も歴史から学ぶことはなくなってしまう。すべての過去・現在の事件は「しかたなかった」ことになってしまう。「過去の価値観」を知ることは大切だが、「現代からどう見えるか」と考えることが必要。「当時はこんな風に考えていた。しかし、今から考えればこうだ。当時、何が見えていて、何が見えていなかったのか」。現代人も、後世の人たちから同じように「評価」される。

l 「パワーポリティクス肯定」の特徴は、天皇・他国との闘争・男性を中心とした歴史の見方。軍事力を使った圧力外交、植民地支配の全面肯定。「歴史叙述」の方法をめぐっての特徴は、「脅威」としての欧米諸国と、日本の「意図」を理解しない「分からず屋」の近隣諸国とする点。「意図(「良かれと思ってやったこと」)」と「結果」の乖離を考えることが、「歴史から学ぶ」である。

l 「戦争」「植民地支配が重要な争点になっている。一番のねらいは「戦争認識を変えたい」。

l 「過去の戦争は侵略だった」とは、若い人も含めてある程度定着している。しかしここでも、「過去の戦争はひどすぎた」「過去の戦争の具体的中身」という部分で弱点がありうることを知るべき。「理解したことを語れるか」の弱点とも言い換えられよう。

l 「システム」と「有事法制」・・・・1991年以降、「掃海艇」「PKO」「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)合意」「周辺事態法」「テロ対策特別措置法」。

l 1978年の「超法規」発言。「戦争をしたら、自衛隊は法律を守っていられない。1977年から有事法制研究を考えていた」。この発言をきっかけに、「法整備がなされていないのが問題」として、有事法制「実現」を目指しだした。

l 「有事」の認定は、「アメリカがそう判断したから有事だ」となるであろう。規制事実が先行している。

l 「ハード」の現状・・・・海上自衛隊は世界第6位の海軍(トン数)。イージス艦は日米しか持っていない。本来は空母機動部隊用の防空護衛艦。情報収集能力は、北朝鮮テポドンミサイルの時も逐一記録していた。「空母保持」に行き着くような「整備」が進んでいる。政府は「空母は攻撃的艦船だから持てない」としているが。

l 長距離輸送力を持つ「おおすみ」は「在外邦人救出」のために法制化された(1999年)が、その時にはすでに1隻が完成していた。既成事実の先行。トルコ地震で「仮設住宅」を運ぶ際にも使用している。ヘリコプターを内部に格納できるように改造すれば立派な「空母」。

l 海上保安庁と海上自衛隊の関係は良くない。「不審船事件」報道が続くなか、独自に沿岸警備ができるような動き。対ゲリラ戦能力の向上もめざしている。海上保安庁も装備強化を始めている。「不審船に追いつけなかった海上保安庁の船」報道の影響。事実は、新潟に当時、船がたまたま配備されていなかっただけ。それに便乗して装備強化を進めている。

l ハードの既成事実に合わせた「法整備」を進めるやり方が進んでいる。法律ができ、さらなる理念を崩壊させていく。これは戦前の歴史でも、「零戦完成」の時などにも見られるように、非常に危険な兆候である。ハードが先行し、それに合わせてより一層のソフト「整備」を進めようとするものである。こうなると「冒険主義的な作戦」が出されやすい。

l 私たちの監視の目が不十分である。軍事力の暴走を、政治(私たち)が抑えられない事態が可能になっている。

l 現実の戦争は「歴史修正主義」とは別に、現代人の戦争認識を転換させる恐れあり。「過去の戦争は間違っていたが、今度は“正しい戦争”をすべき」となる。そこから「過去の戦争も肯定してしまう」ことにもなる。「具体的に歴史を語れる」子どもを育てなければならない。