<最近の声明>

▼【声明】日本政府による朝鮮学校への「高校無償化」対象除外に抗議します(2010/07/31)
▼【声明】教員の意見を反映させた教科書採択を広げよう (2010/04/14)
▼【声明】「海賊対処法」に抗議し、自衛隊の海外派兵拡大に反対する(09/08/01)
▼【声明】教科書検定制度の改善と段階的な廃止を求め、現場教員の意向を反映する採択制度を実現させよう! (09/08/01)
「海賊対処法案」とソマリア沖への自衛隊派兵の撤回を求める(09/03/13)
-------------------------------------------------------------------------------

 緊急アピール:育鵬社版・自由社版教科書は子どもたちに渡せない

 本年は中学校教科書の採択がおこなわれます。かつての「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)の流れをくむ運動は、この採択の機会を最重要視しており、育鵬社版・自由社版の二種のうち、いずれかの教科書が採択されることを目標に、日本会議をはじめとする諸団体は全国的に活動を展開しています。両社版とも既に市販本が売り出されており、この運動の成果を公衆にアピールしている一方で、これら教科書を編集した人たち自身が、他社から発行される教科書を「自虐史観」や「東京裁判史観」にもとづくものであると指弾して、繰り返し誹謗や攻撃をおこなっています。
 私たちは、育鵬社版と自由社版の教科書の、いずれもが子どもたちに渡されないように、これら教科書の採択に反対するものです。

 「つくる会」の手による「新しい歴史教科書」(2001年以降、扶桑社版)は、全般的に基本的な誤りや不正確な部分が多くあり、歴史研究の成果を踏まえない記述に満ちた粗悪なもので、社会的にもたいへん問題になったのは、記憶に新しいところです。非常に多くの間違いや不適切な記述が訂正されないままに、「つくる会」教科書が教育現場に導入されてしまい、このような欠陥教科書を使わされた中学生や教員等が甚大な被害を受けたことは、職能としての歴史研究を重視する諸団体にとっても、痛恨のきわみであったと言わざるを得ません。歴史研究と歴史教育とのあいだで、たいへん大きな問題を抱えこむことになってしまいました。

 育鵬社版・自由社版の教科書は、実質的にこの扶桑社版の後継にあたります。2006年に、「つくる会」は内部抗争を起こして二派に分裂しました。版元の扶桑社が「つくる会」と絶縁したため、2010年度からは、版元を自由社に移して「つくる会」教科書(自由社版歴史教科書)が刊行されています。一方、分裂したグループは「日本教育再生機構」や「教科書改善の会」を結成し、こちらの方は、扶桑社の子会社として設立された育鵬社から、教科書を発行しています。運動の分裂は、結局類似した内容をもつ二種類の教科書の発行をもたらすことになりました。
 扶桑社版と同様に、育鵬社版・自由社版の双方に、重大な問題点があるのを見過ごすことはできません。両社版とも本年の検定に合格しましたが、付けられた検定意見の数がきわだって多いのが注目されます。育鵬社版が150件に自由社版が237件と、歴史教科書全体での平均件数116をいずれも上回っています。さらに両社とも、誤記などの理由で多数の訂正申請を文部科学省におこなっており、さらにこの訂正以後もなお史実誤認や間違いが多く残ってしまうという有りさまです。そもそも歴史研究の成果を教科書叙述に反映する姿勢があるのかさえ、疑問です。

 さらに、次のような問題点も、解消されないままに存在しています。
・全体に民衆のとらえ方が一面的な記述になっています。国家の指導者やいわゆる「偉人」の業績は特筆されていますが、文化や生活の項目以外には民衆の主体的・能動的な姿がほとんど登場しません。
・一方で、取り上げられる有名人物の数だけはこれまでに無いほど多く(育鵬社540名、自由社391名)、学習を困難にしています。この人名数をもって、両社とも学習指導要領に忠実な編集と自負していますが、果たして中学校教科書として取り上げるのに適切な分量といえるのでしょうか。偉人伝を取り上げることによる効果として、改定教育基本法を強く意識しての徳目の教えこみが目指されたもの、と評価できます。

・架空の「神武天皇」について「初代天皇」と記すなど、神話や物語と歴史との関係を誤解させやすい内容です。神話重視、「天皇」重視の記述と、縄文・弥生時代についてさえ一貫して使われている「わが国」といった表現とが相まって、国家形成や支配体制の成立といった問題がまったく不明瞭にさせられています。日本列島地域の歴史は、つねに国家と一体のものであった、という評価を教えこむことがめざされています。

・植民地支配の問題をほとんど書いていません。近隣諸国の脅威、危機感が詳述される一方で、日本による植民地化に至る事実過程は認識しがたい内容になっています。植民地における近代化の功績ばかりを特筆し、支配下にある多くの人びとの苦難については、何らふれるところがありません。アジア諸地域の人びととの相互理解を妨げる、ひたすら内向きの教科書叙述と言わざるをえません。

・近代の戦争についても、侵略や加害の事実を充分理解できるようには記さず、日本国家の正当化に終始する自国中心の記述にとどまっています。育鵬社版・自由社版ともに、日露戦争が諸民族に独立の希望を与えたことを述べ、さらに「大東亜戦争」の時期の「大東亜共栄圏」を特記し、アジアの解放独立を謳ったことに紙数を費やしています。その一方で、アジア太平洋戦争での惨禍については、日本人がわの被害・犠牲についてのみ記し、アジア諸民族の被害については全く無視しています。

・平和教育を敵視し、現代世界における戦争の違法化の動向については重視せず、日本国憲法に規定された戦後日本の体制を変えることを目的とする教科書となっています。育鵬社版は「日本国憲法の最大の特色」として「他国に例を見ない徹底した戦争放棄(平和主義)の考え」としています。自由社版も「世界で例を見ないもの」としており、憲法9条の規定をまったく異例な性格のものと位置づけることに主眼があるようです。9条改憲を射程に入れた、そして日本国憲法を遵守するどころかこれに敵対しようとする、政治的性格をもつ教科書、といえるでしょう。

  10年前に、扶桑社版教科書が登場したときに出された、「緊急アピール」では、次のように述べられていました。「私たちは、今日の学校教育における歴史の叙述は、諸国民、諸民族の共生をめざすものであるべきで、自国中心的な世界像を描くことや、他国を誹謗することは許されないと思います。『新しい歴史教科書』が教育の場にもちこまれることによって、共生の未来を築くために必要な、生徒の歴史認識や国際認識の形成が阻害されることを憂慮するものです」。今なお、あらためてこう言わなければなりません。育鵬社版と自由社版の教科書を教育の場にもちこんではならない、と。よって、私たちは、これらの教科書が採択されることに強く反対するものです。
2011年7月22日
歴史学研究会
日本史研究会
一般財団法人歴史科学協議会
一般社団法人歴史教育者協議会

【声明】日本政府による朝鮮学校への「高校無償化」対象除外に抗議します

 4月1日より「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校就学支援金の支給に関する法律」(「高校無償化」法)が施行されましたが、日本政府は、外国人学校のなかで朝鮮学校だけを、「第三者委員会」による審査・検討を経て無償化の対象にするかどうかの結論を8月頃に出すと先延ばししました。私たち歴史教育者協議会は、「人種差別撤廃条約」「国際人権規約」に示された基本的人権の侵害につながる朝鮮学校への「高校無償化」除外の動きを認めることはできません。
 今年は「韓国併合」から100年にあたります。在日朝鮮人が日本に住むようになったのはどうしてなのか、また日本の植民地支配によって奪われた民族教育の機会を取り戻すために、戦後朝鮮学校がどのように建設・運営されてきたのかを改めて考える必要があるときです。この法律案の国会審議を控えた2月、拉致問題担当相が朝鮮民主主義人民共和国による拉致問題などの外交問題との関わりから、朝鮮学校を無償化対象から外すように文部科学相に要請していたことが報道されました。また、これに関し首相(当時)も朝鮮学校の教育内容が確認できないため対象除外もあり得ると発言しました。
 「無償化」の除外が、最近日本で起こっている排外主義的な風潮のなかでの朝鮮人に対しての差別的な言動や政治的理由が背景にあるとすれば、責任のない朝鮮学校生徒への非人道的な行いにつながり、新たな差別を生み出すことになりかねないことを危惧するものです。3月16日に、国連人権差別撤廃委員会は、一部の政治家からの働きかけによる「無償化」の除外は「子どもたちの教育に対して差別的な影響を与える行為として懸念を表明」し、教育の機会均等を差別なく与えるよう日本政府に勧告しました。日本国憲法は、26条〔教育を受ける権利〕や14条〔平等権〕を保障しています。また、「国連子どもの権利条約」は、第30条で民族上の少数者は自己の集団の他の構成員とともに自己の文化を享受し自己の言語を使用する権利を否定されないとしています。
 朝鮮学校は各都道府県知事から正式に各種学校として認定され、高体連等の各種スポーツ大会出場資格も認められ、種目によってはその大会会場の一つともなっています。また日本の高校生や地域の人々との文化的な交流も深められてきているのです。そして全国のほとんどの大学は日本の高等学校と同等の教育課程を有するものとし、大学入学資格を認めています。朝鮮学校に通う生徒の保護者は納税の義務を果し、韓国籍や日本国籍の生徒も在学しています。無償化の目的である「すべての意志ある高校生が安心して勉学に打ち込める社会の実現」が可能となるためには、朝鮮学校に在学する生徒もその対象とならなければならなりません。
 私たち歴史教育者協議会は、日本政府に、速やかに「高校無償化」法を朝鮮学校にも適用し、朝鮮学校の民族教育権を保障するよう求めます。
         2010年7月31日    歴史教育者協議会 第62回愛知大会 会員総会

 【声明】 教員の意見を反映させた教科書採択を広げよう

 2010年は、06年教育基本法に基づく学習指導要領によって作成された初めての小学校教科書採択の年であり、2011年は中学校教科書採択の年です。
 教科書は、子どもが学ぶ学習の土台であり、教員の授業づくりの土台となるものです。だからこそ教科書は、真理・真実・事実に基づき、世界の人々と連帯できるものであるべきです。長い間、教科書採択は、多くの地域で最も子どもの実態を知っている教員が、各社の教科書を比較検討し、その結果を反映させた教科書を採択してきました。
 1996年「新しい歴史教科書をつくる会」発足後の2001年3月、文部科学省は、「教育委員会の権限と責任において教科書採択を行う」という通知を出しました。これ以後、いっそう公立学校教員や保護者の意見が反映した教科書採択が行われにくくなっています。教育委員会は、首長の推薦で選ばれた5〜6人の教育委員からなり、必ずしも教育の専門家ではありません。少数の教育委員だけで全教科の教科書をすべて比較検討することは不可能です。また、教育委員の推薦者である首長の意向を反映させた教科書採択となりやすく、教育への政治介入につながる危険性があります。昨年8月4日、横浜市教育委員会が18区のうち8区で自由社版中学歴史教科書を採択したのは、その一例です。横浜市教育委員会は、校長や現場教職員で構成された「教科書取扱審議会」の答申を無視して、無記名の秘密投票で決定しました。自由社版教科書は、歴史学・歴史研究の成果に基づかず、間違いも多く指摘されています。使用されている語句も、研究成果を生かしたものではなく、「帰化人」「大和朝廷」「大東亜戦争」などとし、中学生が学ぶ教科書としては不適切です。さらに自由社版教科書は扶桑社版教科書と同様、日本が行った侵略戦争を、「自存自衛の戦争」「アジア解放の戦争」ととらえ、国内外から大きな批判を受けています。その上、横浜市教育委員会は、今年の小学校採択から教科書採択区を全市1区にすることを決定しました。これは、1997年以降、閣議決定されている「採択地区の小規模化」に逆行しています。
 子どもたちが使用する教科書は、豊かな学びを保障するためにも、子どもの実態や地域の実情を反映したものであることが重要です。子どもたちの学習意欲低下が問題になっている今日、日々子どもたちに直接向き合っている教員の意見を反映した教科書採択の実現は切実な課題です。教科書採択を「教育委員会の権限と責任」で行うとした文部科学省2001年の通知を撤回させ、「保護者や教員の意見が確実に反映できる」採択方法にするように取り組みましょう。そして、2011年の教科書採択に向けて、2000年、2004年を上回る規模の運動にするために、今から取り組みを強めましょう。(Word File)
2010年3月28日
歴史教育者協議会全国委員会

   【声明】「海賊対処法」に抗議し、自衛隊の海外派兵拡大に反対する

 昨年の会員総会において、私たちは「自衛隊海外派兵と武力行使のための恒久法案の提出を阻止しよう」と決議しました。派兵の地域・期間・任務・武器使用に関する制限の撤廃を内容とする恒久法は、自衛隊の海外派兵と集団的な自衛権の行使であり、日本国憲法9条をはじめとした平和主義に違反するものです。そして、戦争そのものを違法とする国際社会の動向に逆行するものであることを指摘しました。さらに今年の3月12日に、歴史教育者協議会常任委員会は、「『海賊対処法案』とソマリア沖への自衛隊派兵の撤回を求める」という声明を発表しました。海賊対処を名目にした自衛隊の「派遣」は、憲法9条に違反し、平和を尊重する日本国民の願いに反する道を進むものだからです。

  しかし、政府は3月14日ソマリア沖の「海賊船」対策として護衛艦2隻を派遣しました。その護衛艦には、「死体安置所」が設置され、犠牲者を想定し、特殊部隊・特別警備隊が投入されており、これは海外「派遣」の自衛隊では初めてのことでした。海賊対策は、本来海上保安庁の仕事であり、そこへの自衛隊派遣は海外派兵の事実を積み上げ海外で戦争をする軍隊を想定している点でも、私たちが昨年来危惧していたことが実行に移されています。

  6月19日に成立した「海賊対処法」(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律)は、政府高官からも「審議不十分」という声があがったほど、安易な決定でした。それは、これまであった武器の使用の限定が解除され、地域をソマリア海域に限定せず、守る対象も日本船だけでなく外国船にまで拡張しました。さらに、期間の限定もなくなり、恒久的に無制限の海外軍事行動の解禁という憲法が禁じる「海外派兵」そのものになっています。

  そもそも、「海賊対処法」の下での自衛隊の活動は、ソマリア沖海賊問題の解決になりません。海賊の横行は、ソマリア政府の崩壊・内乱と貧困の蔓延の中で起こっており、そうしたことの根本的な解決のための対策が強化されなくてはなりません。現に、欧米など20カ国以上の海軍艦艇、日本の護衛艦派遣があったにもかかわらず、海賊船事件は増え続けています。つまり、暴力の悪循環・連鎖をさらに悪化させていることは明らかです。本来、憲法9条を持つ日本がおこなうことは、自衛隊の「派遣」ではなく、海賊横行の原因であるソマリアの内戦終結と貧困の解決のための外交努力と民生支援・経済支援なのです。

  このようなことから、私たちは「海賊対処法」に抗議するとともに、それにもとづく自衛隊の海外派兵拡大に反対するものです。
               2009年8月1日   歴史教育者協議会第61回北海道大会 会員総会
 【声明】教科書検定制度の改善と段階的な廃止を求め、
        現場教員の意向を反映する採択制度を実現させよう!


  今日、2006年教育基本法の制定や改訂学習指導要領をはじめとして、新自由主義的な格差を持ち込み、「戦争ができる国」につながる教育が政治的に押し付けられる状況が進行しています。また、このことが、教科書検定・採択制度の改変や教科書記述の後退の動きとも密接に結びついて進められています。私たち歴史教育者協議会は、創立以来60年間、日本国憲法にもとづき平和と民主主義をめざした主権者を育てる社会科教育を一貫して追求してきましたが、このような動きを断じて許すことができません。

 「新しい歴史教科書をつくる会」による扶桑社版『改訂版 新しい歴史教科書』は、歴史学の成果にもとづかず、日本国憲法を敵視し、子どもたちが人権・平和・民主主義を学ぶものとはかけ離れた教科書の記述となっています。そのため、多くの国民やアジアの国々から批判を受け、前回の教科書採択では、全国ほとんどの地区で採択されませんでした。ところが、「つくる会」は内部分裂を繰り返し、扶桑社版を発行し続けた上に、新たに自由社から『新編 新しい歴史教科書』を発行し、今年の教科書採択に参入しました。扶桑社版記述の8割以上を引きつぎ、多くの記述の誤りがあるにも関わらず、文部科学省は検定合格させました。「つくる会」は、「愛国心」にもとづく「道徳心」や日本の優位性をより強調し、「教育基本法改正を踏まえて編集した唯一の教科書」であると市販本を出版して宣伝しています。

  2007年の高校日本史教科書の沖縄戦記述に対する検定では、沖縄県民をはじめとする多くの国民の批判を浴びました。検定の公開性・透明性を求められた文部科学省は、検定審議会の「報告」を受けて、今年3月に検定制度を改定しました。その内容は、教科書調査官が作成する調査意見書や議事概要等の資料を検定審査終了後に公開するというものです。一方、「静ひつな環境」の「確保」を理由に、訂正申請も含めて検定に関わる情報が申請者から流出した場合、「検定審査を一時停止」するとしています。これは、著者の執筆活動を委縮させるだけでなく国民の声を反映させる機会を奪い、かえって密室性を高めるものです。「新設の検定基準」では、2006年教育基本法や学習指導要領の目標と一致するか否かを審査することも追加されています。そのために、「愛国心」などの「教育の目標」と教科書記述との一致を示す対照表の提出まで義務づけています。これにより国家の名による検定が一層強化される危険性があります。政治的な圧力により、扶桑社版以外の教科書も侵略戦争における加害と被害などの記述が後退していますが、この新制度のもとで、出版社の「自主規制」がさらに進むことが危惧されます。こうした教科書検定制度を改め、段階的に廃止することを求めます。

  いま、「つくる会」の教科書を支持する人を教育委員にするなど自治体に圧力を加え、「つくる会」の教科書を有利に採択させようとする動きが活発化しています。こうした政治的干渉によって、「危ない教科書」を採択させてはなりません。私たちは、扶桑社版教科書を採択している地域・学校で引き続き採択するのをやめさせ、自由社版も採択しないことを求め、他の地域でも採択しないことを求めます。

  子どもにとってもっともふさわしい教科書は、学校現場の教員の意向を尊重し、子どもや保護者・地域住民の意見をふまえて選ばれる必要があります。また、採択に関するすべての情報を公開するなど民主的な採択制度が求められます。さらに、「将来的には学校ごとで選んでいくような採択制度」(1997年閣議決定)を、父母・市民とともに実現する運動を展開しましょう。
               2009年8月1日   歴史教育者協議会第61回北海道大会 会員総会

【声明】
 「海賊対処法案」とソマリア沖への自衛隊派兵の撤回を求める

 政府は、2009年1月28日、ソマリア沖の「海賊対策」と称し、「海上警備行動」として海上自衛隊を派遣することを決めた。これに基づいて政府・与党は、3月13日に「海賊対処法案」(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案−仮称)を今国会に提出し、ソマリア沖に向けて「海上警備行動」を発令し、14日には海上自衛隊を派遣しようとしている。
 この法案は、以下の問題をはらんでおり、日本国憲法第9条、ならびに平和を尊重する日本国民の願いにも反する。

1、 アフリカ・ソマリア海域に限らず他の海域での活動も想定し、かつ期限を設けない恒久法
   として位置づけている。
2、 対象となるのは、日本籍船のみならず外国籍船にまで拡大している。
3、 「警職法」第7条を自衛隊にも準用し、現行の武器使用基準のほかに、「海賊目的で他の
   船に著しく接近、つきまとい、進行を妨げる行為」に対して、海賊船を停船させるための
   船体射撃を認めている。

 政府・与党は、海賊対策を警察行動だとしている。しかし、テロ対策を口実にインド洋派兵、イラク派兵に続いて、海外派兵をいっそう拡大するものにほかならない。また、アメリカの戦争に協力できる国になろうとしていることや、企業の経済的利益を自衛隊という軍事力で守ろうとしていることが明らかである。
 「海賊対処法案」は、日本国憲法第9条をなしくずし的に葬り去り、改憲への布石とするねらいがある。日本の国際貢献は、軍事力によらず非軍事的な分野に限るべきである。そもそもソマリア沖の海賊船問題は、ソマリア政府が崩壊し内乱と貧困が生み出したものである。日本政府は、こうした問題の解決のためにこそ貢献すべきである。 私たちは、日本が世界から信頼されるためにも、平和を基調とする日本国憲法の理念を貫いた支援・海賊対策をおこなうべきだと考えている。したがって私たちは、「海賊対処法案」とソマリア沖への自衛隊派兵の撤回を求める。
   2009年3月12日
                              歴史教育者協議会常任委員会

<過去の声明>

過去声明   2007〜2008 2005〜2006 2003〜2004 2001〜2002 1998〜2000