即位礼大嘗祭反対声明

By | 2019年11月9日
     即位の礼・大嘗祭に反対し、天皇の政治利用を批判する
 
    本年4月30日に明仁天皇が退位し、5月1日に徳仁天皇が皇位を継承した。政府は、
これに続き、10月下旬から11月上旬にかけて「即位の礼」に関わる残りの儀式・行事
を行い、さらに11月14・15日に大嘗祭を挙行しようとしている。
 先の昭和天皇から明仁天皇への「代替わり」にともなう一連の儀式・行事について、わ
れわれは、日本国憲法における国民主権原理や政教分離原則への違反、戦前の天皇主権体
制への回帰・天皇制の美化などといった問題点を指摘し、反対の意思を表明してきた。
 今回、政府は、国事行為と皇室の儀式・行事とを分離することで、一定の配慮を示して
いる。しかし、5月1日に国事行為として行われた「剣璽等承継の儀」は、日本神話に根
拠を置くレガリアの継承を含む儀式、10月22日に同じく国事行為として行われた「即
位礼正殿の儀」は、新天皇が高御座に登壇即位する儀式であり、いずれも神話性が強く、
政教分離原則と抵触する疑いが濃厚である。また大嘗祭および関連の儀式・行事について
は、神道形式で行う宮中祭祀であるにもかかわらず、公費である宮廷費が支出されており、
明確に政教分離原則に違反するものである。さらに五月一日の「即位後朝見の儀」と10
月22日の「即位礼正殿の儀」では、壇上の天皇に対し首相が壇下から言葉を発しており、
日本国憲法の国民主権原理にそぐわない。
 かつ、これら諸儀式・行事には、強固なイデオロギーが存在する。これら諸儀式・行事
は、古代以来の前近代において伝統的に用いられてきた中国的なあり方を払拭し、実際に
は伝統に基づかない明治以降の歴史の浅い儀式を、あたかも古代以来の伝統的儀式である
かのように装ったものである。そしてこのような偽装によって天皇制の古さ・伝統性を強
調し、日本国における天皇制存続の正当性を宣布しようとするものであることは明らかで
ある。戦後の学術的歴史研究は、天皇制の神話性、万世一系の天皇の地位を否定し、時代
に応じた王権の機能・天皇権威の歴史性、さらにアジア太平洋戦争において天皇制が果た
した役割を解明することを通じて、日本国憲法下における天皇制のあり方を問い続けてき
た。
 平成の「代替わり」に続いて、ほぼ同じ内容で「代替わり」の諸儀式・行事を挙行し、
天皇制の永続をはかろうとすることは、こうした歴史研究の成果を全く無視するものであ
る。少なくとも「代替わり」の諸儀式・行事は、政教分離原則を徹底し、国民主権原理に
即した形で行われるべきであり、このたびの「即位の礼」「大嘗祭」の挙行には強く反対
の意思を表明したい。
 それとともに、今回の「代替わり」が、明仁天皇の退位にともなうものであるため、政
府は、マスコミ・経済界などを動員して、「祝賀」ムードへの同調を強制している。たと
えば、内閣府をはじめとする政府機関を後援者として、11月9日には「天皇陛下御即位
をお祝いする国民祭典」と称するイベントが開催される。自治体レベルにおいても、「祝
賀」の記帳やさまざまな「奉祝」行事が行われている。これらは、国民を天皇の賛美に動
員すると同時に、現代日本の政治や社会の矛盾を覆い隠そうと意図している。それは、日
本国憲法の規定による天皇の政治的位置や役割をはるかに超えた天皇の政治利用に他なら
ない。
 われわれ歴史研究者・教育者からなる四学会は、戦争における加害・植民地支配の責任
問題の追究、歴史教科書問題への取り組み、陵墓公開運動などの科学運動を通して、歴史
のなかにおける天皇制の果たした負の側面を明らかにし、天皇の政治利用に反対してきた。
今回の「代替わり」においても、天皇の政治利用への批判の態度を明確にし、反対する強
い意思を表明するものである。
2019年11月7日
                                  日本史研究会
                                 歴史科学協議会
                                  歴史学研究会
                                歴史教育者協議会