安倍首相は施行70年の憲法記念日の5月3日、「日本会議」系改憲団体の集会に改憲を主張するビデオメッセージを送るとともに、『読売新聞』紙上で「首相インタビュー」に応えるかたちで9条改憲について具体的な見解を明らかにしました。その主な内容は、憲法9条1項、2項を残したまま、新たに自衛隊の存在を明記する第3項を追加するというもので、この改憲を東京オリンピック・パラリンピック開催を期して2020年に施行したいと時期までも言及するものでした。7月2日に実施された東京都議選では自民党は歴史的な惨敗という結果になりました。これは安倍首相による9条改憲に反対する世論を示すとも言えますが、首相は改憲案を今秋召集される臨時国会には提案するという都議選前の姿勢を崩そうとはしていません。9条改憲をめぐって、かつてなく重大な局面を迎えています。
憲法尊重擁護の義務を負う行政府の長たる首相が公然と改憲を主張すること自体重大な憲法違反であることは勿論、オリンピックを政治的に利用するという点でも五輪憲章に反する行為で許されません。しかも、日本国憲法の原理の一つである平和主義を破壊しようとするものであり、歴史教育・社会科教育の中で平和の価値を何よりも大切にし、日本国憲法の平和主義をさまざまな形で実践し、子どもたちとともに学んできた歴史教育者協議会として見過ごすことのできない事態だと考えます。
国民の中に自衛隊を肯定的に評価する傾向が強まっていることは事実でしょう。これは2011年の東日本大震災などでの自衛隊の災害救助活動を多くの国民が見聞した結果だと考えられます。しかし、今問われているのは、国民が認めるとされる災害救助の自衛隊を憲法に位置付けるか否かではありません。2014年、安倍政権はこれまで政府自身憲法9条の下で認められないとしてきた集団的自衛権の行使を閣議決定によって容認しました。翌2015年、日本が攻撃を受けなくても、地球上のどこででもアメリカが戦争を始めれば、自衛隊はその「後方支援」をおこなうとした安保法制の成立を強行しました。こうして海外でアメリカとともに戦争をおこなうことを安保法制で認めさせた自衛隊を、次は憲法の中に位置付けようとしています。自衛隊が戦力不保持、国の交戦権否認を定めた9条2項と両立しないことは明らかです。世界有数の軍事力を保有し、地球上どこででも活動する自衛隊が憲法に位置付けられれば、9条2項は空文化されることは明らかです。それは、とりもなおさず自衛隊が9条の制約を取り払われ、事実上軍隊として海外で活動することにほかなりません。
日本国憲法は、国際紛争を解決する手段として戦争を放棄し、一切の戦力を保持せず、国の交戦権も認めない、日本の安全と生存は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」保持するのだと人類の理想を高く掲げています。私たち歴史教育者協議会は、これまでも保守勢力による改憲策動に対してたたかってきました。9条改憲を許さず、日本国憲法の平和主義を守り育てる教育実践に取り組み、改憲を許さない運動を全国で展開することをここに決議します。
2017年8月4日 一般社団法人 歴史教育者協議会会員集会