1月9日(日)に「返還50年の沖縄と歴史教育の課題」というテーマで、第40回中間研究集
会を実施しました。初めての「会場とオンラインとの併用(ハイブリッド)」となりましたが、
約130の参加があり、大成功に終わりました。
1,内容は…
午前に鳥山淳氏(琉球大学)の講演と、沖縄の高校生のスライド報告。午後は、A「沖縄に
関する授業実践報告」と、B「「歴史総合」も含めた教育課程の学習会」の2つの分散会を実
施しました。
鳥山淳氏の講演テーマは「『返還50年』の沖縄をどうとらえるか」でした。沖縄の歴史を
150年前まで遡り、琉球処分以来1910年代までを「日本国家が強権的に領土に組み込んだ50年」
とし、近代化を図る施策が先送りされた時代と特徴付けられました。1920年代から1960年代を
「日本国家が沖縄を激しく翻弄し、犠牲を強いた50年」とし、日本軍と米軍による要塞化、米
軍による長期占領とともに、沖縄糖業の保護と「国民経済」の相克についても言及されました。
返還から現在までを「日本国家の沖縄に対する責任(過去の清算)が問われた50年」とし、「責
任」は後退し、基地と振興策を「リンク」させる論理が前面に登場してきていると指摘されま
した。
沖縄の高校生上原一路(ひろ)氏は、スライドで沖縄の抱える問題を指摘し「先生方、沖縄
の声を伝えて」と訴えました。
分散会A「沖縄に関する授業実践報告」では、小中二つの報告が沖縄から出されました。小
学校の儀間奏子氏は、コロナ禍の子どもたちに、今の不自由な生活を見つめ、もっと大変な時
代があったことを、中山キクさんの体験をもとに紙芝居を作り伝えていきました。身近な問題
から、子ども達は沖縄戦に関心を示しました。中学校の宮城美律氏は、校内に「平和委員会」
を作り、生徒たちの手で「平和を伝えていこう」という取組みを全校に組織しました。教師は
いずれ転勤してしまうが、読谷という地域に生きる子ども達はそれを伝え続けていけるという
信念が伝わってきました。どちらも、慰霊の日だけでなく子ども達が平和を考え伝えていく実
践が伝わった中身の濃い分散会でした。
分散会Bでは、高校の新科目「歴史総合」を見据えた実践が2本報告されました。愛知の伊
藤和彦氏は、日本近代の戦争と感染症の関りについて、日中戦争と生物兵器、アジア・太平洋
戦争での日本軍兵士の死など、授業での「問い」を示しながら報告しました。千葉の周藤新太
郎氏はフランス革命と明治維新の比較学習について報告しました。生徒は班別にワークシート
を基に話し合い、「明治維新は革命なのか」「文化の違いから考える日仏の性格の違い」など
の「問い」をつくる。さらに両者の類似点、相違点などを調べるワークシートに基づく学習の
後、各自が結論を導き出すという実践でした。
2,参加者の感想は…
〇全体を通して…「1日通して『沖縄』と『平和学習』について考えることができる充実した
集会でした。講演会・高校生の発言・分科会というプログラムがとても良かったです。」
〇鳥山氏の講演…「沖縄の『返還50年』を考えるための時間軸『3つの50年』という整理の
仕方が、沖縄の現状を考えるうえで、とても分かりやすかったです。そして、150年間も
沖縄に犠牲を強いている状況であることを認識し直しました。質疑応答で、講演の内容が補
強され、理解が深まりました。」
〇沖縄の高校生のスライド報告…「すばらしくて感激しました。研究している貝の話から基地
問題に迫った報告は、たいへん説得的でいろいろな方に知ってほしいと思いました。インス
タグラムで声をかけて活動を始めた行動力もすてきだと思いました。『歴史地理教育』に書
いてほしいです。」
〇分散会A…「儀間さんの報告も宮城さんの報告も素晴らしかった。小学校、中学校の違いはあ
るが、いずれも生徒の主体的な学びを引き出していく。地域の人たちのいろんな力を活用す
る。生徒は平和の大切さを『自分事』として全身を通して学び取っていく。沖縄の平和教育
の分厚い取り組みの一端を見せていただいた。」
〇分散会B…「伊藤報告…歴教協のこれまでの優れた実践を基に『歴史総合』の授業を創ってい
こうという姿勢に賛成です。周藤報告…比較することが日本史と世界史をつなぐ(授業)方
法として有効であることがわかりました。」
〇ハイブリッドについて…「コロナ禍がつづくと思うので、このような方法(ハイブリッド)は
今後も取り組んでいかないといけないと思いました。支部の例会も取り入れる予定です。」