第70 回京都大会は8 月4 日から6 日までの3 日間の日程で同志社中学校・高等学校にて行われま
した。第70 回大会の概要を皆さんから寄せていただいたコメントなどを紹介しながら、報告します。
同志社中学校・高等学校のキャンパスは、広大な敷地内にICT 設備の整った教室を利用すること
ができ、非常に恵まれた環境の中で大会を行うことができました。全体会や閉会集会をチャペルにて
行いました。全体会前には、非常に厳かなパイプオルガンの演奏で私たちを迎えて下さいました。参
加者の感想の中にも「会場に入ったとたんのパイプオルガンの演奏にびっくりしたと同時に、感激し
ました。『おこしやす』の気持ちが伝わってきました。ありがとうございました。」というものがあり
ました。施設利用に当たって、関係された方々に改めて感謝致します。
この間、引き続く新学習指導要領を巡る様々な課題・問題、部活動指導を巡る問題、私たち教員の
働き方に関わる課題など日本の教育を巡る情勢は激動の時代を迎えております。また、政治課題とし
ても日本国憲法改正へ向けた動きが取りざたされるなど、予断を許さない状況が続いている中での大
会開催となりました。厳しい情勢の中でも、参加者の皆さんの協力により、非常に豊かな実践交流を
行うことができました。その成果を明日につなげていくことができればと思います。
●全体会には655名が参加!~史上初、チャペルでの全体会~
全体会は、今までの歴教協大会の中で初めてチャペルでの実施となりました。
開会前には、同志社中学校・高等学校のご厚意でパイプオルガンの演奏が行われました。パイプオ
ルガンの荘厳な響きがホールに満ちあふれた後、全体会が始まるという素敵な演出となりました。39.5
度という猛暑も含め、これまでにない歴教協大会となりました。
大会委員長、現地実行委員長、同志社中学校・高等学校長が歓迎の言葉を述べた後に、韓国・全国
歴史教師の会の白玉真会長、南京市第一中学校歴史研究組組長の?泓氏から連帯のメッセージが語ら
れました。白玉真氏は、韓国で重ねられてきた平和の努力と歴教協の理念とは相通じるものであると
強調されました。また、?泓氏は日本に歴史を大事に考え、日中間の対話を追求する先生が大勢いる
と知り、私たちも交流をとおして今の日本についての理解を深めることができ、国境を越えた歴史教
育者の交流がますます有意義なものになっていると述べられました。
基調提案は「明治150 年から学ぶもの、学んではならないこと」として、山田朗歴教協委員長が提
案がされました。大会速報に掲載された基調報告の概要を再掲いたします。
「今年は、明治150 年、日本の近現代を振り返り、学ぶ絶好の機会である。この150 年間の歴史に
は、学ぶべきことと、学んではならないこと(反省すべきこと)がある。封建的な秩序や社会制度が
打ち破られ、個人の権利と自由の重要性が叫ばれ、その実現を期す運動が起こってきたことは重要で
ある。反面、学んではならないことは、欧米列強と共に侵略と植民地支配を追求し続けてきた事実で
ある。そして、明治以来150 年間、日本は一貫して異国との軍事同盟下にあり続けている。明治礼讃
の風潮の中身は、この学んではならないものである。150 年の歴史は教育に国家が介入し、教育の自
由を奪ってきた歴史である。国家の教育介入は断固阻止しなければならない。歴教協が掲げる『地域
に根ざした歴史教育』の大切さを再認識し、継承・発展させていこう」と提案がありました。
・「地域実践報告」は『学校・地域から創る平和の文化~朝鮮学校との交流が築いたもの~』と題し
て取り組まれました。
地域実践報告は、福知山支部の教員が中学校での朝鮮初中級学校との6 年間、京都中高級学校との2
年間の文化祭での交流について報告しました。文化祭は、生徒間の交流にとどまらず、地域住民の参
加により、学校と地域を結んで、民族の相互理解が進みました。
報告は、映像を交えて行われ、長きにわたるダイナミックな実践の内容がよく分かるものでした。
最後は、中学生・卒業生などによる太鼓の演奏で締めくくられ、実践の持つ底力を実感させるものと
なりました。
実践報告の後は、「若者ステージ」と題して、京都の若手教員から教員生活や教育についての思い
が語られました。
・「記念講演」は、「『明治150 年』を考える」と題して東京大学の加藤陽子さんから講演をいただき
ました。
現政権にとって維新とは旧体制の打破であり、維新の賞賛は民主党旧政権を倒した自分たちの賞賛
につながっているという指摘から始まり、戦前の天皇と軍隊の関係、敗戦後の天皇象徴性と退位の問
題についてお話されました。その中で天皇の象徴性は明治時代からすでに現れており、それは内閣を
議会に対して強くしたいという伊藤博文の意図から生まれたという指摘がありました。
全体会参加者からは次のような感想が寄せられています。
「地域実践報告=中学生と朝鮮学校との交流のようすがよく分かりました。とくに、2002 年以降
の日韓関係が冷え込むなかでも、交流が続いたことには感動しました。地域に根づいていたからこそ
交流が続いたんでしょうね。若者の声のコーナーがあるのは良いなと思いました。また、かれらの声
をききながら、歴教協も変わっていかなければいけないですね。」(愛知県40 代)。
「地域実践報告は、まさに地域に根ざし地域の団体・地域住民と結びついた教育実践(教育活動)
であり、たいへん感銘を受けました。これは、先生の情熱と粘り強い取り組みがあったからこそ成し
遂げられたものと思います。こうした実践が全国各地で展開されることを願いつつ今後とも私もその
一端を担っていきたい。」(滋賀60 代)。
「事務局(実行委員会)あいさつだけではなく、韓国・中国からの研究者のあいさつもあったことが、
大会の方向性を示していて、すてきでした。若者ステージもマイク1 本で話をするだけであるのに、
すごく会場全体に親和的な雰囲気がうまれました。コロンブスの卵的な発想です。」(40 代埼玉)。
「若者ステージに新鮮さを感じた。映画『万引家族』の監督が作った作品をテレビで見た時のショッ
クに似た新しい波であった。歴教協の中に今の社会現象が着実に入っている。なにか未来があると思
う。」(東京70 代)。
「『若者コーナー』は良かった。ぜひ今後も若手・若者に焦点をしぼった取り組みを続けてほしい。
加藤講演も興味深いものでした。『150 年』という区切りがおかしいというのは盲点でした。やはり
『天皇』『天皇制』をどうとらえるかが、来年以降問われるのだと思った。」(神奈川県50 代)
「山田氏基調提案は、私が今、なぜここに居るかを考え直せる、自信を持っていける根拠を明確にし
て頂きました。」(広島県50 代)
●第70 回記念大会全国交流会を開催
4日6時から同志社中高食堂で交流会が開催されました。分科会で発表するレポートの交換や各自
の近況交流など、歴教協のメンバーならではの話に華が咲きました。
元京都歴教協会長・井口和起さんの講演では、蜷川虎三府政下での京都での「見える建設と見えな
い建設」のお話がありました。当時の革新的な政治を実現する根底にあった教育の営みに関するお話
は、現在の情勢に当てはめて考えても非常に教訓となる部分があるお話でした。憲法が生きた“見え
ない建設”が、見えなくなってしまわないように、平和と民主主義をどのように生徒と学び合ってい
くのか、問題提起と宿題をいただいたような気がしています。
その他にも、若者ステージに登場したお二人の方や現地実行委員会大会事務局長の大川さんはじめ、
様々な方々からお話しをいただきました。改めて、歴教協の歴史の大きさを実感する交流会となりま
した。
●多くの充実した実践が報告される
全体会の翌日からは、二日間かけて分科会が行われました。優れた実践が多く報告され、熱い議論
が交わされました。参加した方々の感想を紹介し、分科会の様子の一端を紹介します。
「様々な意見をお聞きし、ハッとすることもあり、なるほどと思うところもありました。他の先生
方に様々な意見をいただくことで、今後どのようにしていけばいいのか、こういうふうにしてみよう
と思うところもあり、大変勉強になりました。様々な実践をみせてもらうこともこのような展開をす
ればよいのかと思いました。今後にいかしていこうと思います。」(小5分科会奈良20 代)。
「研究報告、実践報告ともに充実していました。勉強になりました。討論も充実、活発でよかった
と思います。『歴史は点と点が結びついて線になったもの』が印象的でした。多角的・多面的に物事
をとらえ、さまざまな視点から歴史をひも解いていきたいと思います。」(日本近現代分科会20 代)。
「今年から小学校教員として勤め始めた私にとって学びの多い一日でした。様々な地域に根づいた
実践をききながら、自分だったらどうしよう、どうやって授業をつくろうか、と考えさせられました。
それぞれの先生の熱意の伝わる発表で、私もがんばらないと!と強く思いました。ぜひ、今回の発表
を参考に実践をしてみたいと思います。」(小学校3・4 年生分科会三重20 代)。
「教員一年目で授業の作り方がまったくわからなかったなかで、今後やってみたいと思う実践ばかり
でした。報告を聞く中で、自分だったらどのような授業を作っていくのか考えていくかを夏休みの宿
題としたいと思いました。」(日本前近代史分科会東京20 代)。
「初めての参加、初めてのレポート発表ですので、少し緊張がありましたが、とても話しやすい雰
囲気、参加しやすい雰囲気でしたので感謝です。時間が思ったより早くすぎてしまうので、なかなか
話し合いの時間が少なくなってしまうのが少し残念ですがそれだけ討論・話し合いに熱中しているの
だと感じています。」(中学校歴史分科会京都30 代)。
「小・中・高様々な校種の取り組みを聞くことができてよかったです。『平和教育は戦争のこと』
だけではない、ことに気づかされました。日々の生活の中の差別や社会のゆがみから戦争へ向かって
いく。戦争そのものだけではなく、そういう問題に子どもたちの目を向ける機会をつくることも大切
だと分かりました。自分の周りの先生がしている『人権教育』には抵抗があったのですが、今のお話
を聞いて『人権教育』に対する見方が変わりました。ありがとうございました。」(平和教育分科会
奈良30 代)。
「遠い地域で頑張っておられる先生が居るのに感動しました。校長先生の参加に感激しました。テー
マが二宮尊徳と聞き、戦中人間は勤勉たれ!という模範でしたから、ぎょっとしましたが、人物がそ
の時代、」その時代で、どのような価値観で利用されるかなどを考えさせられました。」(思想・文化
・文化活動分科会京都80 代)
●地域に学ぶ集いには407名が参加。
8月5日分科会終了後に地域に学ぶ集いが行われました。京都ならではの集いが開かれ、豊かな気
づきや学びをさせていただきました。多彩なテーマの集いを用意してくださった現地実行委員会の皆
さん、本当にお疲れ様でした。参加者からの感想を紹介します。
「狂言『柿山伏』」参加者
教員をしながら狂言を学び舞台を踏んでおられるのはすごいなぁと思いました。先生だけあって基
礎を分かりやすく教えられるのは上手ですね。そして狂言師ならではの授業の中に笑いがあるのはお
もしろかったです。
今のテレビなどの笑いは上から目線な笑いが多いけれども狂言は、上から目線な庶民の笑いですね。
ネタよりも、所作や声の出し方、間の取り方を磨けば素朴なネタでもどこまでも面白くなるのだと
気付かされました。ありがとうございました。(京都40 代)
「授業で使える仏教の基礎知識」参加者
仏教というと学校の歴史の授業では、天台宗・真言宗からはじまり鎌倉新仏教の名前、創始者、主
な著書くらいしか学習したことがない。しかも、文化史で扱うところ故に暗記で済ましてきてしまっ
た授業は多いのではなかろうか。仏教の世界はきわめて広く、当時の社会(現在でも)でこれらが受
容され、発展し、分かれたりするなど、様々な事象が存在していることに気がついてはいたが、あま
りそれを深めることもなかったことを猛省している。本日のお話しは、浄土教の知識としてのおもし
ろさを知るとともに、仏教の日本における変遷から見える歴史的なポイントを考えるよいきっかけと
なった。(東京20 代)
「東寺百合文書から京都を考える」参加者
東寺百合文書の存在価値、今まで途絶えることなく受け継がれてきた理由が分かった。この文書は
残存したが、全ての古文書や史料が残存していないのも事実であり、これ以上、歴史的価値のある物
を残すためには、当事者はもとより、官民が一体となって共有する必要があるのではないかと考えた。
(京都10 代)
京都がなぜ戦災を免れたのか等、とても興味深い話を次々として頂いて大変面白かった。関西出身
の人間として、京都と奈良の張り合い等笑える話も聞かせて頂き、時間を感じさせない内容のお話し
であった。勿論、主テーマの東寺百合文書についての知識も深めることができた。(千葉50 代)
「市民の歴史から幕末維新期を考える」参加者
堅実に文書を発掘・整理・翻刻を行い、その町にしかないその町の歴史を描こうとする仕事の価値
がわかりました。京都は町に文書が保管されているということに驚きました。お祭りを大切にしてい
るところは文書保管ができるという話-地域存続、地域を守ることが急務であると思いました。(静
岡50 代)
「旧日本軍中国(旧満州)遺棄毒ガス被害者と日本の医師たち」参加者
医者の卵が731 部隊を知らない、ということと私たち歴史に関わる者どもが毒ガスの具体的な症状
を理解していない、ということから文系・理系に分けて勉強させず、いかにして両方に広く渡って学
んでいくことが大切か、ということが分かった。そのために、授業をするだけではなく、教科をまた
いだ横断的なカリキュラムを組んでいくことも求められていると実感しました。(埼玉20 代)
「米軍機地下の京都1945 年~ 1958 年を考える」参加者
京都に米軍基地があるのは舞鶴の海軍基地のみと思っていたが、36 カ所もあるとは知らなかった
し、基地があることにより、市民生活に大きな影響を与えていたことがわかった。これらのことから
推測して、今自分が住んでいる地域にもこのようなことがあったのか調べてみたいと思った。甘い汁
を吸っていた日本人もいたことだろうと思う。その面も知りたい。60 数年前の出来事が今につなが
ることは深刻だ。(千葉60 代)
「『ふりそでの少女像をつくる会』の若者が語る現代」の参加者
20 年を超す長い期間にわたり引き継がれてきた取り組みの全体像を本当にていねいに報告いただ
きありがとうございました。感動しました!平和の文化を創り上げる力は、ここにあると確信するこ
とができました。取り組みに参加するきっかけは、人によっていろいろだと思いますが、今日の報告
をきくと、自分ができることを、自分なりのカラーで、語り継ごうとされていることは共通している
と思います。これは大切にして欲しいことだと思いました。本当にいい時間を過ごさせて頂きありが
とうございました。(京都50 代)
「ヘイトスピーチにどう向き合うか?」参加者
本当に学ばせていただいた集いでした。自身は、移民の歴史を授業にすることをやっています。日
本人もかつて排日運動を受けた歴史がある訳ですが、単に昔つらい目にあったことと同じことをやる
のかどうかということでなく、そうした歴史をふまえながら“共生”をどうやって子どもたちと学ん
でいくか?様々なことを考える機会でした。(和歌山40 代)
●埼玉大会へ向けて(閉会集会)
閉会集会では、会場校からの挨拶を同志社中学校・高等学校副校長様からいただきました。同志社
の歴史を含め学園についてのお話をいただきました。京都大会のために多くの配慮をいただき、本当
にありがとうございました。
続いて、特別報告として神奈川歴教協の若手会員から「Youth Salon って何?」と題して神奈川で
取り組まれている、学生・若手教員のための勉強会の報告があり、今後の歴教協の活動についての問
題提起がありました。
特別報告の内容も含め、歴教協のより充実したあり方をひろく語り合い実践していくことができれ
ばと思います。参加者からの発言では次の内容の発言がありました。
①高校新学習指導要領と新科目「歴史総合」-歴史認識と近現代教育のあり方を問う
②学び舎の教科書をどのように活用するか-社会科教育法における指導案作成から
③大会テーマ明治150 年に関わって-近現代分科会の議論についての報告
④若手の参加者からの発言
⑤初参加初レポートをされた京都の参加者から
⑥現地学生スタッフの方から
閉会集会で気づいたこと、学んだ内容を含め、今回の大会で得られたことを多くの方々と共有化し、
今後の歴教協の取り組みや授業実践で、深めていければと考えます。恒例の大会開催地引き継ぎでは、
京都から佐々木酒造の銘酒や京都大会の資料などがエールと共に埼玉の方々におくられました。
閉会集会の参加者からは、「若者の報告が三つもあり、『つなぐ』が少し見えてきました。引き続き
多くなっていくといいなと思います。」(神奈川60 代)。「若手教員が参加できるように必要なこと
を若い方々自身が考えていることが理解できた。近代化、大衆化、グローバル化を考えていく中大切
なことを過去、現在、未来の3 つを見据えて今後『歴史総合』をとらえていきたい。」(東京30 代)。
学生スタッフの方々はじめ若手の方々のエネルギーに支えられながら多くのことを交流し、学び合う
ことができた大会であったと思います。
歴教協創立70 周年の年に開催する次回埼玉大会にも、身近にいる仲間(特に若手教員)を誘って
参加し、さらに内容のある実践交流を実現していきましょう。
歴史教育者協議会大会委員会